「シリコン列島ニッポン」という半導体による国おこしが急速に推進されている。日本政府も本気になって、半導体産業に対する大型補助金を着々と実行しているのだ。その象徴ともいうべき北海道ラピダスの工場建設には、並々ならぬ補助金・支援金を投入している。ラピダスはこれを受けて先ごろ2nmプロセスという最先端プロセスのファーストロットの製造に成功したのだ。これは快挙といってよいだろう。
何しろ、世界広しといえども、この2nmプロセスは大変に難しいものであり、これを実現できるのは事実上の半導体の世界チャンピオンである台湾TSMC以外にないのだ。その最先端プロセスをラピダスが開発できたのは、いつにかかって日本国政府の後押しとニッポン半導体復活を祈念する人たちの思いがつながったからであろう。
九州シリコンアイランドの中核にそびえ立つソニーの熊本工場
さて、現状において日本国内の半導体生産の50%以上を担っているのは、九州シリコンアイランドである。とりわけ、熊本における動きは凄まじい。TSMCの熊本第1工場、第2工場建設のインパクトは大きい。これに加えて、ソニーの合志における第2工場立ち上げも超大型スケールが想定されている。福岡県においては、三菱電機パワーデバイス製作所が、福岡および熊本において積極的な投資拡大を計画している。そしてまた、ロームの福岡県筑後におけるSiCの新工場も立ち上がりつつあるのだ。
長崎県においては、諫早におけるソニーのFAB5が大規模な設備投資となるもので、すでに建屋は完成し、状況を見ながら設備を導入していく構えだ。そしてまた京セラは、同じく諫早エリアに半導体パッケージ、半導体装置部品などの新工場進出を決めている。宮崎県においても、ローム・東芝連合軍による巨大工場建設が計画されている。
東北エリアにおいても、いわゆる「東北シリコンコリドー」という施策が展開されている。本州の最北端の青森にあっては、パワー半導体の大手、富士電機がSiCを中心とした投資を進めている。岩手県北上においては、NANDフラッシュ大手のキオクシアの第2工場がいよいよ稼働を開始する。これはかなりの金額の設備投資になるだろう。そして、この分野で世界トップをいく韓国サムスンを打倒するとの勢いがあるのだ。
山形県鶴岡にはソニーの工場、そしてパワー半導体の新電元工業が秋田、山形に工場を持っており、これらもまた新たな動きを見せるだろう。宮城県仙台においては、台湾の大手シリコンファンドリーであるPSMCが1兆円投入の巨大工場建設を企図していたが、様々な状況により中止され、新たな企業誘致に県は動いているようだ。
関西エリアにおいては、京都シリコンバレーという構想が出始めており、中国・四国エリアにおいても高松のアオイ電子の大活躍、広島マイクロンの大型工場建設、ファンドリーの岡山のフェニテックセミコンなどの動きが注目されるのだ。
シリコン列島ニッポンの姿がはっきりと見えてきており、5年後10年後に大きく日の丸の旗を掲げる日がやってくることを、筆者は心から祈っている。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。