電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第623回

日本の半導体戦略の第2弾は半導体のセキュリティーが最重要ポイント!


ECSEC Laboratoryの倉員桂一氏が語る言葉の重さ

2025/5/9

 日本の技術的なセキュリティー対策がまったくダメということはグローバルに知られている。訴訟大国であるアメリカには、ボロボロに攻撃されている。コピーばかりが大得意の中国には、知財権を徹底的に盗まれている。こんなことではどうにもならない。

 筆者は2014年に『なぜ特許世界一の日本が国際訴訟で苦戦するのか?』(東洋経済新報社刊)という本を執筆させていただいた。その中で、2012年当時のことであるが特許取得総件数の国別ランキングにおいて日本は34万3484件の第1位という栄誉に輝いていた。ちなみに、第2位はアメリカで22万8918件、第3位は中国で15万2102件となっていた。これを見ても知財権大国である日本が国際社会において半導体やAI、さらにはスマートフォンといった分野で世界に置いてけぼりにされているのは、ほとんど考えられないことなのだ。しかし、事実はそうである。

 「真の半導体復活に向けて日本の半導体戦略には半導体設計拡充という第2弾が必須である。そのために最重要となる“半導体製品に組み込むセキュリティー”という窓を通して見れば、正に今の日本が進むべき道ははっきりとしている。そうした意味で、政府においても民間企業においてもこのセキュリティー感覚を再度思い起こしてほしい」

 こう語るのは、ECSEC Laboratoryの代表取締役社長である倉員桂一氏(電子工学修士/経営学博士)である。倉員桂一氏は、茨城県勝田市(現ひたちなか市)の出身で、水戸一高を出て東京大学工学部で物理工学を学んだ。その後日立に入社し半導体畑を歩むことになる。そして、日立・ルネサステクノロジにおいて、セキュリティーマイコン事業の責任者として2000年代初めには世界トップシェアを獲得するまで成し遂げた方なのだ。

ECSEC Laboratory代表取締役社長の倉員桂一氏
ECSEC Laboratory代表取締役社長の倉員桂一氏
 「日立時代からルネサスに至るまで、組み込み機器向けに定評のあったSHマイコンの世界は実に面白く取りつかれるように頑張り、その後セキュリティーマイコンの本部長なども歴任した。当時から半導体に組み込むセキュリティー技術、量産工場での特殊な対応や世界で戦うためのセキュリティーに関する第三者評価認証制度等の重要性に気がついていた。また政府や多くの民間企業も同様の認識を持っていた。これらは今後日本が目指す未来社会の姿と言われるSociety 5.0において一層重要性が増していくので、日本の半導体復活戦略において必要不可欠なものだ」(倉員氏)

 さて、倉員氏が経営するECSEC Laboratoryは、サイバーフィジカルセキュリティーの最後の砦がしっかりと作られているかを評価するのがミッションとなっている。国際標準規格などに照らし合わせて、セキュリティーが確実に商品に組み込まれているかをしっかりと見極めていくのだ。

 具体的に言えば、ICチップ、搭載されるソフトウエア、これらを用いた機器・装置などにおけるセキュリティー対策のレベルを第三者として評価することを通して、身の回りにある日本の様々な対象商品のセキュリティー=安心らしさと現状の危うさを20年以上クールに見てきたカンパニーである。黎明期のはじめからCC(Common Criteria)ハード/ソフト、暗号モジュールハード/ソフトや近年ではIoT機器などといったフィジカル側のセキュリティーをすべて扱っている唯一の日本の正式な会社なのである。株主は関連する大手企業が中心となり、公平性・独立性の観点から出資は小口で各社ほぼ同一比率になっているという。

 「日米半導体摩擦の後に国内半導体メーカーは苦境が続き、ICカード向けなどのセキュア専用半導体の開発・生産からも次々と撤退してしまった。そのため国内では今後の半導体設計開発の最重要基盤であるセキュア専用半導体を開発/生産する人材・技術が枯渇寸前で世界から取り残されつつある。

 政府・民間企業の危機意識も復活の兆しが見えてはきているものの、今のままでは日本が今後調達可能なセキュア専用半導体はインフィニオン、NXP、サムスンなどすべて海外製という状況が続いてしまう。これは食糧供給体制においてあたかも米を海外から100%調達せざるを得ないことが長年続くようなことに匹敵する、正に危機的状況と言える。これでは、日本のデジタル商品のセキュリティーは日本自らでは守れないし海外からも信用されない。今後ますます身の回りに普及していくIoT機器に対しても同様である。一方で例えば中国は戦略的に先々を見据えた活動を継続していて、このセキュリティー分野でついに世界のトップレベルに並んだ。日本の遅れをなんとしても取り戻し、再建するお手伝いをするのがECSEC Laboratoryのミッションなのである」(倉員氏)

 シリコン列島ニッポンの復活のため、国家半導体戦略企業ラピダスの登場など半導体工場については再興が始まった。それに続きいよいよ本丸である半導体設計の拡充が急務となっている現在にあって、その成功に必須な最重要基盤が半導体におけるセキュリティー技術とその評価認証制度である、との倉員氏の言葉は大変重い。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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