電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第626回

「大阪・関西万博」は超つまらなかったが、NTTパビリオンは出色


世界と勝負する画期的な光電融合デバイスを最大アピール

2025/5/30

 何かと評判のよろしくない「大阪・関西万博」に出かけてみた。結論を言えば、とんでもなく酷いものであった。筆者は、会場を回りながら「これぞニッポンの恥!」と呟いていたのである。

 この万博の目玉ともいうべき大屋根リングについては、お話にならないほどちゃっちく、こんなものを世界の人たちに見せて良いのか、とまで思っていた。要するにたかが材木の柱をリング状に建ててあるだけであり、木造建築の粋などと宣伝するのはインチキでたらめとしか言いようがない。

 これを計画した人たちは、世界最古の木造建築である法隆寺(世界遺産)を見たことがないのか、とまで憤慨していたのである。パビリオンについても、いくつか回ってみたがとにかくお金がかかっていないのには驚いた。安っぽいCGの映像ばかりであり、これを企画した人たちはウォルトディズニーのCGやゴジラのCGなど映画館に行ったことがないのか、と思えてならなかった。

 関西万博で分かったことは、もう日本の国力で万博を開くことはできないな、ということであった。筆者は、1970年の大阪万博をはじめとして、つくば万博、愛・地球博など博覧会といわれるものはまずもって行っているが、大阪関西万博ほど惨めなものを見たことがない。

 それにしても信じられなかったことは平日の昼間だというのに凄まじい人が押し寄せていたことである。入場するのにも1時間近くかかり、各パビリオンもやはり1時間以上待つという有り様であった。その意味では、多くの人たちが大阪・関西万博を大切にしようという優しさに溢れていたとも言えるのだ。

光電融合デバイスの世界をアピールするNTTパビリオン
光電融合デバイスの世界をアピールするNTTパビリオン
 さて、パビリオンの中で出色ともいうべきものはNTTパビリオンであった。音楽ユニットのPerfumeが万博記念講演で行ったライブを次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」でパビリオンに伝送し、まるで目の前で踊っているかのような3D映像を追体験できるのだ。

 このIOWNこそがNTTが世界と勝負するサプライズの技術なのである。光電融合デバイスを組み込み、端末内の処理が光に置き換えられ、超高速そして省電力が一気に進む。最近では、電力消費が従来の1/8となるボード接続用の光電融合デバイスが開発されており、これを最大アピールしていた。

 32年にはIOWN4.0が実現する見通しである。こうなれば、とんでもないことになる。従来比で遅延時間は1/200、電力消費は1/100、伝送容量は125倍に到達する。スマホに光電融合デバイスが入るようになれば、電力消費は激減するわけであり、年1回の充電で済むという信じられない時代が来るのである。

 ところで、今どきの人は知らないだろうがバブルの頂点であった1989年、NTTは世界最大の時価総額を誇っていた。現在において、世界トップの時価総額はApple、第2位はMicrosoftとなっているが、NTTは第199位に沈んでいる。あーなんということだ、と嘆く中高年の輩は多い。

 しかしながら、ついにNTTが起死回生の勝負に出る。それが光電融合デバイスであり、半導体技術と光技術の融合を成し遂げて、世界に躍り出ようというのであるからして、盛大な拍手を送りたいと思っているのは、筆者だけではあるまい。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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