球状シリカや窒化ケイ素(SiN)、アセチレンブラックなど、半導体やリチウムイオン電池(LiB)向けの放熱・導電・絶縁機能部材で業界標準品を数多く擁するデンカ(株)(東京都中央区)。電子デバイス市場は、AI関連を除き汎用ならびにパワー半導体などの調整が継続し、依然不透明感が漂う。逆風のなかで、次世代の大型商品を次々投入する同社の電子・先端プロダクツ事業を統括する堀内博人氏に、足元の市況や今後の事業展開を聞いた。
―― 事業環境はいかがですか。
堀内 電子・半導体市況だが、大底は打って緩やかな回復基調にあるとみている。AI関連とそれ以外の分野で大きく異なっている。例えば、半導体封止材向けでトップシェアの球状シリカでは、高周波領域で必要な低誘電正接の特殊グレードへの引き合いが急増し、新たに回路基板材料向けの需要が拡大している。球状アルミナも高放熱TIM用途でAIサーバーや基地局向けに、高放熱封止材用途でGPUやHBM向けに需要が急増している。いずれも関連部材は大牟田工場で投資を行っており、4月から立ち上がるのでタイムリーに供給できそうだ。
―― 2024年度(25年3月期)の業績見通しについて。
堀内 すでに公表しているとおり、電子・先端プロダクツ部門の売上高は950億円、営業利益は100億円を見込んでいる。期初計画よりも売上高で50億円、営業利益で20億円の下方修正となる。EVや汎用半導体市況の調整が継続しているためだ。
―― 低誘電有機絶縁材料「スネクトン」も本格展開しますね。
堀内 期待の製品の1つで急激に引き合いがでてきており、このほど上市した。ポスト5/6Gなどの次世代通信規格向けで高速・大容量データ転送に適した低伝送損失の基板材料の主要原料として、CCLメーカーからの引き合いが急増している。日本、台湾、中国で評価が進んでいる。
千葉工場内で現在、70億円を投じて新棟を建設中で26年春の稼働を見込む。需給が逼迫してきているので、それまでは委託先にお願いして25年春から供給を開始する。リジッドやFPC基材の主原料としての拡販を見込んでいるが、層間絶縁材料などへの適用も視野に開発を強化中だ。30年度をめどに200億円規模を売り上げる計画だ。
―― 高耐熱仮固定材「TBM」も上市間近ですね。
堀内 主要材料はアクリル系樹脂で、当社が持つ接着剤の技術を活用している。25年度から本格販売を見込む。SiCなどのパワー半導体の電極形成時に、当社のTBMを活用すれば、UVレーザーで簡単に硬化し、剥離することが可能だ。一液型で剥離後の洗浄も溶剤を使用せず、300℃の高温にも耐えられることから半導体製造を簡略化できる。非常に好評で、現在渋川工場(群馬県)に専用のクリーンルームを整備し、25年度上期から稼働させる。
―― SiN事業の現況は。
堀内 EVに搭載されるインバーター回路向けの放熱基板やモーター用ベアリング用途に注力する。風力発電向けのベアリング用途にも期待する。足元ではEV市場の減速を受け需要はトーンダウンしているが、中長期的には拡大基調に転じるとみている。計画どおり大牟田工場内でSiNの粉原料の増産を進めており、4月には稼働する。生産能力は22年比で倍増するが、市場動向を見ながらさらなる増産投資も検討する。
―― アセチレンブラック事業は。
堀内 LiBの正極材の導電助剤として大きなシェアを確保しており、高圧送電線向けでも需要が拡大している。タイに新拠点を整備中で、予定どおり26年度の稼働を目指す。
―― 金属ベース基板も手がけています。
堀内 高放熱の樹脂開発を強化している。熱伝導率10W/mK超の高放熱製品に注力している。現在、14~19W/mKクラスの新製品も開発中だ。ただし、競争も激化しているため事業を再構築中だ。川上の高放熱絶縁樹脂の開発をより強化し、エッチングなどの回路製造工程は、全面的に製造委託する方向だ。24年度内には事業再編を完了する。
―― SiNを含むセラミックス基板事業も見直しますね。
堀内 セラミックス基板事業も原料に注力する。白板製造までは自社で手がけるが、従来社内にあった回路品の製造は当社品の特徴と価値を評価いただけるお客様へ限定的に対応したい。より高放熱(110~130W/mK)や薄板化の製品開発にシフトする。顧客との調整を経ながら25年度から段階的に着手する。
―― 30年までの次期経営計画では、ICT&エナジー部門で営業利益450億円を掲げています。
堀内 25年秋には一度、中期経営計画の評価を行うが、さらなるプラスアルファも視野に入れている。部材の高機能化を追求し、当社が得意としている放熱、導電、絶縁機能部材で「制電・制熱」を合言葉に高機能な商品開発に注力する。当社が得意なセラミックスなどの無機の世界と、現在注力している有機製品が融合する部分で、さらに画期的な新製品を市場に継続投入していく。
(聞き手・特別編集委員 野村和広)
本紙2025年3月13日号5面 掲載