ここ数カ月取材した案件はほぼ新聞記事として書き切ってしまったこともあり、今回はあえて通常の紙面用記事では書き切れていない部分から、筆者が注目していることにスポットをあててみる。
比較的車載向け半導体比率の高い外資系半導体メーカー複数社の決算記事を毎四半期に確認・執筆しているわけであるが、この2025年1月末~2月にかけて発表された各社の24年通期・24年10~12月期決算説明会における経営層の発言から、日本に居住して日々感じている自動車業界の印象とはまた違う動きが見えてくる。日本では直近、記憶に新しいところでは24年12月後半から25年2月半ばというわずか1カ月半の間に、日産自動車と本田技研工業(ホンダ)の経営統合を巡る動き(MOU締結から統合白紙化)が目まぐるしく展開されるなど、100年に一度の大変革期を象徴する出来事が繰り広げられたばかりの状況にある。
この背景には、米テスラや中国BYDを筆頭とする新興EV勢の台頭、SDV(ソフトウエアデファインドビークル)、自動運転などに向けたこれら新興勢の技術革新のスピード感など、これまでの自動車業界のセオリーをあらゆる点で超越する事象に対する危機感、こうした状況下で未来でも世界に君臨する自動車メーカーであり続けることができるのかという焦燥感などがあることは、自動車メーカー各社トップのメッセージからも読み取れる。実際に中国では日系自動車メーカーのシェア減などの報道が常態化している。自身も含めてであるが、日本に身を置いて生活していると、悲観的な印象を抱きがちになっている節がある。しかし、車載向け半導体で活躍する外資系主要半導体メーカーに目線を向けてみると、見える景色が少し異なるのである。
欧米日は低迷、中国は堅調な実態
今回は、車載向け半導体比率が比較的高い4社の各社決算コメントに焦点を絞る。この4社の24年全社売上高に占める車載向け半導体比率は、NXP Semiconductors(オランダ)が57%(24年12月期全社売上高=126億ドル)、STマイクロエレクトロニクス(スイス)は46%(24年12月期全社売上高=133億ドル)、テキサス・インスツルメンツ(TI、米国)は35%(24年12月期全社売上高=156億ドル)、インフィニオン テクノロジーズ(ドイツ)は56%(24年9月期全社売上高=150億ユーロ)となっており、注力市場の1つに「自動車」が位置づいている。
各社の24年自動車向け売上高の結果は、NXPが前年比4%減、STマイクロは同14%減、TIは24年10~12月期の自動車向け売上高が前四半期比1桁%台半ば(5%程度)の減少であったことが決算コメントから読み取れる。また、インフィニオンの24年9月期通期自動車向け売上高は前年度比2%増であった。各社の25年自動車生産台数の見方も前年比で微減から横ばい、具体的にNXPでは約8900万台とみているようだ。いずれにしても、自動車向けは全体感としては低調であることがうかがえる。
しかし、各社の各論に注目してみると、全体感とは少し異なる状況のようだ。「欧州と日本での自動車生産が減少」「中国を筆頭にアジアは好調だが、欧米は非常に低調。25年1~3月期も同様を予想」「特に欧州が軟調で(24年10~12月期の)BBレシオは1を下回っている」「中国は成長、欧米日は減少」。つまり、この自動車の低調さは中国以外にあり、中国は引き続き堅調であることが見えてくる。
中国が規模感、SDVや電動化など多くの点でリード
実際に、中国の堅調ぶりは各社の決算コメントからも読み取れる。たとえば、NXPは24年の自動車向け売上高が前述のとおり前年比5%減ながら、中国は前年比4%成長、この大部分は自動車関連としている。TIも24年10~12月期の中国事業は全体的に好調で、前四半期比、前年比で成長。特に中国の自動車部門の強さに言及している。インフィニオンも中国での24年10~12月期における販売量が前四半期比で10%増となり、予想を上回ったとコメントしている。
中には、「中国ではxEVの普及が急速に進行しており、24年後半には中国で販売された自動車の50%はxEVだった」と決算での問答でコメントする経営層も見受けられた。これらを検証すべく、中国で伸長するBYDのIR資料を確認してみると、24年新エネルギー車(NEV)の生産台数は前年比41%増の約430万台、同販売台数も同41%増の約427万台と大幅増の状況にあり、直近の25年1月分のみを見ても、同生産台数は前年同月比59%増の約33万台、同販売台数は同49%増の約30万台と好調が継続していることがわかる。
なお、こうした事象に対し、「欧米から中国へのシェアの移行が進んでいる」「EV普及は地域によって異なる。EVは世界的には10%台半ばの成長率で成長すると予想する。少し世論と比較すると慎重な見方をしている」との声があることも一方で注視する必要がある。つまり、世界における自動車台数全体の規模感は変わらない中、中国が台数を伸ばし、欧米日が減速しているという流れは、半導体や電子部品供給先としての存在感として中国が増していることでもあるのだ。
そしてこれは台数という規模の論理にとどまるものではなく、SDV、電動化、AI活用など今では多くの点で中国がリードしているとの見方がこれら各社の共通認識と見受けられる。自動車分野での競争力を維持するため、研究開発においても中国を重視しているとの声も聞かれる。中には、決算問答の中で、中国を重視した組織変更を行ったとして、中国担当のビジネスリーダーがCEOに直接報告し、中国OEM向けの専用ソリューションを確実に実行するよう指示できる体制にしたことを明かす半導体メーカーもある。また、「中国では現地生産が大きな要件」とし、中国で前~後工程まで完結型のサプライチェーン構築も着実に築いていることが伝わってくる。
米中貿易摩擦、関税問題、あらゆることがマクロ経済では起こるわけだが、ニュートラルに現状を分析・受け入れ、その結論に対して競争力を維持するための手法とみれば瞬時にトップダウンで組織や事業運営方法も見直し、成長に必要となれば即実行していくスピード感と柔軟性、気概は見習うべきものがある。彼らは中国から世界に先行する最先端の技術革新を吸収し、それは世界展開にも活きるという視点も持ち合わせている。
中国OEM向けで着々と実績
24年10~12月期の決算時に公表された事案に絞ってみるだけでも、各社は着実に中国自動車向けで成果を上げている。たとえばSTマイクロは、多くの中国大手自動車メーカーとSiC供給契約を締結している成果を強調し、24年6月にはGeelyAuto(吉利汽車)と長期SiC供給契約を締結したことを挙げている。そしてこれは中国に限らないのかもしれないが、自動車用MCUでは電動化とデジタル化を双方でサポートし、24年もアプリケーション全体で設計受注の勢いが継続しているとする。
TIは24年に全社売上高に占める中国での事業比率が約20%になったとして、中国に深く浸透していることに言及。そして中国EVメーカーの狙いはグローバルプレーヤーになることであり、彼らの本社は中国であったとしても、最終完成車は世界のあらゆる地域に販売したいと考えているとの見方を示す。そのため、汎用品~高度なASSPまで自社工場での製造を基本とするTIの各種製品群、品質、サービスなどが中国EVメーカーニーズにマッチしていると分析している。ただし、中国のEVメーカーは現地に根差す競合他社を採用する傾向にある中での競争であるという現実の厳しさにも触れる。つまり、こうした競争に打ち勝って、これら各社は躍進し続けているということだ。
インフィニオンも中国主要OEM向けにSiCモジュールの受注が大幅に増加していることをコメント。また、中国のBYD向けには、ゾーン制御ユニットとステアリングアプリケーションを網羅するMCU、PMIC、MOSFET、センサーでの設計を数多く受注していることも紹介している。具体的にBYDのEV車種向けに、TRAVEO MCUs、AURIX MCUs、電圧レギュレーター、PROFETファミリー、OptiMOS 7 MOSFETs、TMRベースの角度センサーなどの製品群を、「Seal 07 EV」のボディーゾーンコントロールユニット、「Seal U DMi」の電動パワーステアリング、「Denza Z9GT」の後輪パワーステアリングに供給しているようだ。さらに、中国シャオミーのBEV「Xiaomi SU7」向けにも2つのHybridPACK Drive G2 CoolSiC 1200V電源モジュールを含む60種類以上のコンポーネントを提供しているという。
ちなみに、ドイツのボッシュも1月に東京ビッグサイトで開催されたRX Japan主催の車載系展示イベントにおける会場内「車載半導体フォーラム」講演の中で、SiC製品がBYDの高級車モデルに多く採用されており、BYDのグローバル戦略拡大に伴い、ボッシュのSiC製品がBYDの輸出車にも今後搭載されていく見通しであること、長城汽車グループのXinDong、シャオミのBEV「Xiaomi SU7」向けに、ボッシュのSiCチップを搭載した定格出力400VのeAxleを、ボッシュと上海汽車系の中国企業との合弁会社であるUAES社とともに供給していることなども語っていた。
このように、これまでの常識、セオリーにとらわれず、ニュートラルに現状を見極め、受け入れて、将来の伸長に向けて瞬時に体制を切り替える姿勢・柔軟性、関係構築を強化すべき供給先を見極めて着実に獲得していく手腕、そしてそれは世界展開にもつながるという視点など、見習うべきこと、今後へのヒントがあるように思える。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美