半導体製造装置の国内最大手、東京エレクトロン(株)は2024年度(25年3月期)売上高として、過去最高となる2.4兆円を計画。AI半導体向けを中心とする先端プロセス投資と、中国向けの成熟プロセス投資の双方が伸びて、前年度比で31%増収という驚異的な伸長を見せている。次年度に向けてさらなる成長に期待が集まるなかで、同社代表取締役社長・CEOの河合利樹氏は、「スケーリング(微細化)とヘテロジーニアスインテグレーション(先端実装)の2軸での成長」をキーポイントに挙げる。同氏に半導体製造装置市場の見通し、今後の成長戦略について話をうかがった。
―― まずは、WFE(Wafer Fab Equipment=前工程製造装置)市場の見通しについて教えて下さい。
河合 当社の第3四半期(24年10~12月)決算発表でも示したとおり、24年(暦年)は1100億ドル程度で着地したとみている。これに対して、25年は同程度を見込んでおり、高い投資水準が続きそうだ。もともと、24年は1000億ドルになると想定していたが、中国地場の半導体メーカーの投資前倒しの影響や、活況なAIサーバー向け投資などで従来予想を上回るかたちとなっている。これにあわせて、25年の市場予想も見直すかたちとなっているが、市場全体の見方は従来から変わっていない。
―― 24年は業界全体で旺盛な中国投資が大きなドライバーとなりました。25年の見通しについては。
河合 一定の投資水準は続くが、新興メーカーの投資が一服して前年比ではマイナスになると想定している。中国向けの売上高比率は24年7~9月期に41%、10~12月期に43%を記録しており、実に半分近くの割合を占める状況となっていた。ただ、中国比率は徐々に低下していくという見方に変わりはなく、24年度下期トータルで見れば、30%台後半になると予想している。25年度はグローバル半導体メーカーの先端プロセス投資が増加することもあり、中国比率は30%台前半から半ばで推移すると我々はみている。
―― 先端プロセス投資のアプリケーション別の動向は。
河合 ロジック/ファンドリーは一部大手で投資調整があり、大手1社の投資がクローズアップされる展開となっているが、今後は国内でも先端ファンドリー投資が見込めるなど、最大手を追従する動きも十分期待できる。DRAMはさらなる微細化、すなわちスケーリングに向けた投資に加えて、HBMなどヘテロジーニアスイングレーションに関連した投資が大いに見込める環境だ。
―― 足元では先端パッケージ分野のビジネスが拡大している印象です。
河合 エッチングやリソグラフィー、成膜など前工程プロセスに関連したスケーリングはもちろん、これにヘテロジーニアスインテグレーションを加えた、2軸での成長が大きなカギを握っている。後者においては、ウエハープローバーやウエハーボンダー/デボンダーなどヘテロジーニアスインテグレーションに特化した装置も必要となり、24年度(25年3月期)の売り上げは前年度比で約2倍となる2000億円を超える売り上げ規模となる見通しだ。プローバーはハイエンドロジック向けでは市場を独占しているほか、ボンダー/デボンダーはHBM向けを中心に60~70%の市場シェアを獲得できている。
―― 今後も先端パッケージ向けの製品を広げていく考えですか。
河合 重要なことは、当社の技術が生かされて、かつ継続的な技術革新が期待でき、市場が拡大するエリアに開発費を投入し、付加価値の高いプロダクトを継続的に創出することで、インフレなどの変動にも対応していく。これは我々とサプライヤー企業との関係も同様で、単純に価格低減(調達コストの引き下げなど)をしていくだけでは、健全な関係性・市場ではなくなってしまう。
―― わかりました。製品別の事業進捗についても教えて下さい。
河合 直近の成果としては、枚葉成膜装置で24年に「Episode 1」と呼んでいる新しいプラットフォームをリリースしたが、先端ロジック向けで導入予定のBSPDN(Back Side Power Delivery Network)向けに量産POR(Process of Record=顧客側ラインでの承認)を獲得した。界面制御性に優れており、これによってコンタクト抵抗を下げられることと生産性の高さが評価されている。また、このBSPDN工程では永久接合用途のボンダーの量産採用も決まっており、採用アプリケーションが順調に広がっている。
―― エッチング装置は。
河合 もともと、DRAMキャパシタ向けのHARC(High Aspect Ratio Contact)工程で高いシェアを持っていたが、この強みを活かすかたちで、NANDのチャネルホール工程でも大きな成果を見せ始めている。400層を超える領域で必要となってくる極低温エッチング装置で、主要1社向けに量産PORの獲得に至った。26年からの本格的な業績貢献が見込まれているが、一部は25年から寄与してくると見ている。
こうした成果もあり、エッチング装置の事業は今後さらなる成長が期待でき、先ごろ発表した宮城工場(東京エレクトロン宮城)での生産新棟でこうした需要に対応していく考えだ。
―― 生産新棟の計画について教えて下さい。
河合 21年5月に取得していた本社工場北側にある岩倉地区に建設する。延べ床面積は約8万8600m²で、建設費用は約1040億円を見込んでいる。新棟では次世代生産のあり方を実現するスマートプロダクション構想に基づいて、物流機能の自動化や製造工程の機械化を取り入れ、従来に比べて労働生産性を4倍、スペース効率2倍、リードタイム3分の1を目指していく。生産能力は28年度(29年3月期)までに現行の1.8倍に、将来的には3倍に引き上げる構想を持っている。
―― 他拠点でも開発・生産体制の強化に取り組んでいます。
河合 宮城工場では、これに先行して新開発棟の建設も進めており、25年春の竣工を予定している。また、熊本工場(東京エレクトロン九州)でもコーター/デベロッパー、洗浄装置、ボンダー/デボンダーの開発機能強化を目的に、新開発棟の建設が進んでおり、25年夏の竣工を予定している。成膜装置を手がける東京エレクトロン テクノロジーソリューションズの東北事業所(岩手県)でも新棟「東北生産・物流センター」が25年秋に竣工予定で、各拠点で体制強化を積極的に進めている。
―― 生産体制の刷新や物流面に対する高い意識が業界でも随一です。
河合 半導体デバイス市場は30年に1兆ドル以上、50年には5兆ドルに拡大すると見込まれており、これにあわせて製造装置市場も間違いなく拡大していく。この拡大に対して、機械化できるところは機械化して効率性を高めていく必要がある。「膨張と成長は違う」ということを念頭に、さらなる市場拡大にしっかりと対応していきたい。
(聞き手・編集長 稲葉雅巳)
本紙2025年2月27日号1面 掲載