電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第592回

スマホ市場の成長余地はグローバルサウス


トランションを追いかける中国スマホ大手

2025/2/28

 「停滞しているスマートフォン市場の成長エンジンはどこにあるのか?」――フォルダブルスマホは新機能として期待されているが、高価格のため一般消費者の買い替えは難しい。AIスマホは急速に普及する見込みで、25年に4億台に達するもようだ。

 しかし、消費者の間ではすでにスマホは機能過剰と感じている人が多く、買い替えの動機につながりにくいという意見もある。最も重要な成長要因は今さらながら「5Gスマホ」ではないかと私は考える。これから5G通信が始まるグローバルサウス地域での買い替えが進むことで、今後の市場拡大が期待されるからだ。

 中国スマホのトランション(伝音)がアフリカなどのグローバルサウス市場でトップシェアを誇ってきたが、24年後半に業績悪化が目立った。OPPOやシャオミーなど中国スマホ大手もグローバルサウス市場の深部へ市場攻略を拡大しており、その煽りを受けた格好となった。先進国のデジタルコンシューマー製品を手がける大手企業の知らぬ間に、中国企業がグローバルサウス市場の覇権を握ろうと激しい鍔迫り合いを繰り広げている。

■ピークから2億台減少したままのスマホ市場

 世界のスマホ市場はかつて6年間で10億台も増加する成長時代(11年の5億台弱から17年に15億台弱へ)があった。しかし、17年に記録した販売台数14.7億台をピークに減少トレンドへ入り、20年の新型コロナの年には2億台ダウンして12.9億台に減少。23年には11.5億台まで落ち込んだ。24年は12億台に増加し、25年以降は緩やかな増加が期待されているが、17年の水準に戻ることは当面難しい。

25年から中央政府の買い替え補助金(15%OFF)が始まった(上海の家電量販店で撮影)
25年から中央政府の買い替え補助金(15%OFF)が始まった(上海の家電量販店で撮影)
 それでは、今後のスマホ市場における成長ポイントはどこにあるのだろうか?かつて5億台弱の市場規模があった中国市場は今後も3億台前後の市場規模でほぼ横ばいが続くものと予想され、成長市場としては期待できない。ただし、25年は中国の中央政府の買い替え補助金政策(スマホ価格の最大15%)にスマホが初めて採用される(これまでスマホは地方政府による購入補助金しかなかった)ので、ある程度の増加が予測される。

■期待が集まるフォルダブルスマホだが……

三つ折りスマホ「Mate XT」(ファーウェイのデモルームにて撮影)
三つ折りスマホ「Mate XT」(ファーウェイのデモルームにて撮影)
 スマホの市場拡大には、やはりスマホの新機能が新たな消費喚起を促すことが理想的だろう。24年にファーウェイが三つ折りスマホ「Mate XT」を発売して注目を集めた。1画面使用時は6.4インチ、3画面の最大展開時には10.2インチのディスプレーサイズになり、タブレット端末並みの画面サイズになるのが特徴だ。
 ファーウェイはネットの予約販売の開始からすぐに600万台の注文を集めた。1台が約40万~50万円するため、単純計算で3兆円弱の販売額が見込める。しかし、パネルを供給する中国の有機ELパネル企業のBOE(京東方科技)の量産歩留まりがまだ不安定で供給量に制約があり、すぐに600万台を供給することは難しかった。

 結局のところ、フォルダブルスマホは高額商品のため、一般ユーザーが買い替えることは少なく、24年の市場規模は1800万台ほどしかなかった。28年になっても市場規模は6000万台程度にしか成長しない見通しだ。これではスマホ販売を押し上げる新製品として期待するには力不足だ。

■AIスマホ元年となった24年

 24年はAI機能を搭載したスマホやノートPCが発売され、注目を集めた。生成AIによる言語や画像などの自動データ編集が身近なものとなってきた。サムスンはスマホのギャラクシーシリーズにAI機能を搭載し、複数言語による自動翻訳を可能にした。アップルも「iPhone16」にAI機能の「Apple Intelligence」を搭載した。音声認識による自然言語処理や文字起こし、翻訳などの機能を追加した(しかし、日本語対応は25年からなので、世界市場でプラス効果を出すには時期尚早だったようだ)。

AI機能を搭載したサムスンの「Galaxy S25」(上海の家電量販店で撮影)
AI機能を搭載したサムスンの「Galaxy S25」(上海の家電量販店で撮影)
 24年には6000万台しかなかったAIスマホ市場だが、25年は一気に4億台に急増が予測されている。28年には6.6億台に拡大し、販売されるスマホの半分がAIスマホという状況になるだろう。AIスマホの普及速度は相当な速さが予測されている。

 しかし、一般消費者の間では今のスマホですらオーバースペックと捉えている人が少なくない。「AIスマホが欲しいからすぐ買い換えよう」という動機づけにはあまりならず、次に買い換えるスマホにAI機能が搭載される順番になるまで購入は待つと考えている人も多い。

■周回遅れの5Gシフトが大本命

 スマホ市場を再び成長に向かわせる要因として、フォルダブルスマホは台数的な影響度では限定的だし、AIスマホも積極的にすぐに買い替えたいと誰もが考えるものでもないように思う。それでは、何が今後のスマホ市場の成長を牽引してくれるのだろうか?その答えは意外にも「5Gスマホ」になるのではないかと私は考えている。

 24年のスマホ市場(12億台)のうち、5Gスマホの販売比率は全体の3分2で、3分の1はまだ4G以下のスマホが販売されている。世界にはまだ5G通信が始まっていない、もしくは普及していない国や地域がまだ多いのだ。23年の5Gスマホの販売台数は6.8億台だったが、24年は1.2億台も増えて8億台になった。グローバルサウスの地域では今まさに5Gスマホへの買い替えが進行している。

グローバルサウスが5Gシフトを加速(筆者が予測して作成)
グローバルサウスが5Gシフトを加速(筆者が予測して作成)

 5Gスマホの販売台数は25年には23年比で2.2億台の増加(10.8億台)が予測されている。28年には5Gスマホの販売比率は86%に上昇し、11億台の市場に拡大するものと予測される。つまり、24~28年までの5年間に5Gスマホへの買い替え需要は15億台規模になると試算されているのだ。今後のスマホ市場の増加を牽引する最大の要素は「グローバルサウスの5Gスマホシフト」でまず間違いないだろう。

■アフリカ市場で絶対王者のトランション

 アフリカ市場で最も売れているスマホブランドとして有名になったトランション(伝音)は、06年に創業した。iPhoneの登場により先進国市場でガラケーからスマホへの買い替えが始まったころ、トランションは「残り物には福がある」のことわざどおり、アフリカでガラケーの販売を始めた。4枚のSIMカードを挿入して複数人で使用できるようにしたり、充電しなくても20日バッテリーが持つ端末を投入したり、黒人の肌をよりきれいに撮れる「美黒機能」付きカメラを開発したりして、これまでのスマホとは異なる現地ニーズに合った機種を展開した。

トランションのバングラディッシュ工場(23年稼働)での技術指導の様子(同社リリースより)
トランションのバングラディッシュ工場(23年稼働)での技術指導の様子(同社リリースより)
 トランションは市場規模が大きいナイジェリアと南アフリカ共和国を中心にアフリカ全土に販売網を構築し、17年にはアフリカの携帯電話市場で40%のシェアを獲得し、サムスンを抜きトップに立った。15年にインドネシア、16年にインドに進出するなど、今では新興国を中心に70カ国以上に製品を展開するようになった。19年に中国の新興企業向け証券取引所「科創板」に株式上場したことで突如脚光を浴び、「アフリカのスマホ王」と呼ばれるようになった。アフリカで培ったノウハウを生かし、近年はコロンビアやエクアドル、ペルーなど中南米市場でもシェア広げている。

■トランションを猛追し始めたOPPOとシャオミー

 トランションの売上高は16年の116億元(約2425億円)から24年には730億元(約1.5兆円)となり、8年間で6倍以上に急成長した。新型コロナの頃に一時的に業績低下が見受けられたが、これを除けば増収増益を続けてきた。しかし、24年の後半に売上高と利益の両面で予想外の減収減益を計上した。1~9月期では売上高は19%増、純利益は0.5%増だったが、7~9月期だけを見ると、売上高は7.2%減、純利益は41%減となった。

トランションの世界販売台数シェア(筆者が予測して作成)
トランションの世界販売台数シェア(筆者が予測して作成)

 トランションは得意としてきたアフリカ市場で、24年7~9月期の販売台数が8%増加した。これに対して、中国スマホ大手のOPPOから派生した新興スマホブランドのリアルミー(realme)は同期に販売台数が2倍、OPPOは22%増、シャオミーは13%増となり、トランションのシェアを食い始めた。ついに中国スマホ大手たちもグローバルサウスの市場攻略に本腰を入れ出したのだ。アフリカ市場に食い込んでいたサムスンも同30%減となり、アフリカ市場での競争状態は激しさを増している。

 米中デカップリングが進み、先進国市場(特に米国)では中国製品に対する規制(関税の追加)を強めている。中国企業は国内市場だけでは捌き切れない過剰キャパ分をグローバルサウス市場への輸出でなんとか帳尻を合わせようとしている。その勢いも加わり、中国企業のグローバスサウス市場への進出が著しい。日米欧などの電機大手の知らぬ間に、中国企業がグローバルサウス市場を深耕して市場の覇権を握りつつある。


電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

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