電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第590回

2025年の中国向け装置需要はどうなる?


下支えしてきた爆買いが終焉しそう

2025/2/14

 中国の物品などの輸出入管理と税関事務を担当する中国海関総署が発表した統計によると、2024年の半導体製造装置(Machinery for manufacturing SC devices or IC)の輸入額は前年比22%増の335.1億ドルとなり、2年連続で大幅に増加した。


 注目は、過去2年続いてきた中国による装置爆買いが25年も継続するかだが、各社の発表などから判断すると、大きくスローダウンしそうだ。SEMIが24年12月に発表した「2024年末市場予測」では、25年の世界市場は前年比8%増の1214.7億ドルが想定されているが、これまで下支えしてきた中国需要の鈍化が顕著になれば、一転してマイナスに陥ることも考えられる。

24年12月の輸入額は過去最高

 中国による装置爆買いは、23年半ばから中国海関総署の統計に顕著に表れるようになった。これは、22年10月に米国が16/14nm以下のロジック、HP(ハーフピッチ)18nm以下のDRAM、128層以上のNAND向け装置の輸出を規制したことに加え、この政策に対して日本とオランダにも同調を求め、23年7月に日本、同年9月に輸出規制を発動させたことによる。これで規制前の駆け込み需要が発生したことに加え、規制対象外の製造装置についても「規制が今後さらに厳しくなる」ことを想定し、追加の発注が相次いだ。

 この爆買いにより、23年当初は「23年の半導体製造装置世界市場は前年比で少なくとも20%は落ちる」と目されていた予想は大きく覆され、結果として前年比ほぼ横ばいで着地した。24年も前倒し発注は継続し、AIブームの到来、特にHBM(High Bandwidth Memory)の国産化を目的としたメモリーメーカーの増強投資などが牽引するかたちとなり、中国の装置輸入額は高止まりが続いた。月別で見ると、24年12月の輸入額は45.5億ドルとなり、2020年以降で最高を記録した。

 これに伴い、23年下期から24年にかけて、実に半導体製造装置の約40%を中国が購入するという状況が続いた。主要装置メーカーの過去1年における中国向け売上比率は、ASMLが41%(24年12月まで)、アプライド マテリアルズが37.5%(24年10月まで)、ラムリサーチが39.5%(24年9月まで)、東京エレクトロン(TEL)が46.4%(同)となっている。

ポジティブ要素よりもネガティブ要素のほうが強い

 25年の中国向け装置需要については、ポジティブ要素とネガティブ要素が混在している状況にある。

 まず、ポジティブ要素としては、中国のメモリーメーカーが前倒し発注を継続している点が挙げられる。本来なら26年に予定していた投資計画を25年に実施する予定とみられ、24年末ごろから引き合いが寄せられている。米国の輸出規制対象の厳格化を鑑みて、引き続きHBMの生産拡大を進めていくもようだ。

 一方、ネガティブ要素としては、大手装置メーカーが「25年向けの中国向け比率は低下する」とコメントしている点だ。例えば、ASMLは24年7~9月期の決算会見で「24年の中国比率は50%近くになるが、25年は20%程度に下がる見通し」と述べ、10~12月期の会見でもこれを繰り返した。また、TELも24年7~9月期の決算会見で「24年度の中国向け構成比率は、上期から下期にかけて下がる見通し」と語っている。

 製造装置向けの部材メーカーからも明るい展望は聞こえてこない。「中国の半導体メーカーはすでに『おなか一杯』の状況」「購入したものの、クリーンルームに未実装のまま倉庫に置かれている装置がかなりある」「日本の製造装置メーカーからのフォーキャストはかなり弱気。25年度は相当厳しくなることを覚悟しなければいけない」といった声が聞かれ、現状では、過去2年の装置需要を下支えしてきた中国市場に25年も期待をかけるのは難しいようだ。

 25年は、ロジック半導体市場の設備投資を支えてきた3社にも明暗が分かれている。24年に約300億ドルの設備投資を実施したTSMCは、25年に380億~420億ドルの投資を計画し増額予定だが、苦境のインテルは24年の240億ドルに対して25年は200億ドルへ減額、サムスンもファンドリーとDRAM市場における苦戦に伴い、不況期に巨額投資を断行して好況期にシェアを一気に拡大するという、かつての姿が鳴りを潜めてしまっている。

 25年の世界半導体製造装置市場は、SEMIの予測どおりにはいかないと見ておくのが、現状では正しいのではないだろうか。


電子デバイス産業新聞 特別編集委員 津村明宏

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