磁性材料フェライトの工業化を祖業とし、独創的でイノベーティブな製品で躍進し続けるTDK(株)(東京都中央区)は、売上高2兆円超の世界屈指の電子部品メーカーとして圧倒的な存在感を示している。2024年度(25年3月期)には同社初となる長期ビジョン(10年後のありたい姿)「TDK Transformation」を策定。そこからバックキャストして策定した新中期経営計画(24~26年度)では、26年度売上高2.5兆円、営業利益率11%以上、ROIC8%以上を目標に掲げた。代表取締役社長執行役員CEOの齋藤昇氏に、ポートフォリオマネジメントや投資戦略、25年の展望など幅広くお聞きした。
―― 24年の総括、25年の見通しを。
齋藤 景気低迷、地政学的リスクなどマクロ環境の不透明感は25年も継続するとみる。ただし3大重点市場のICT、自動車、産業機器のそれぞれをブレークダウンした場合、必ずしも一様ではない。例えば、スマートフォン(スマホ)の生産台数は前年度比4%増、5Gスマホに限れば同13%増、自動車も全体は横ばい推移を見通すものの、xEVの生産台数は同14%増と伸長を予想する。業績も24年度上期に営業利益が過去最高を更新するなど、24年は比較的順調に進捗した一年と総括する。また、当社初の長期ビジョンを社内外に公表させていただいた年でもあった。
―― 長期ビジョンに込めた想い、新中計について。
齋藤 長期ビジョンには、トランスフォーメーション(変わり続けていく)する社会に対して、自身を含め当社の全従業員も変わり続けながら貢献していく、という2つの想いを込めた。新中計は長期ビジョン実現のための事業基盤強化の期間と位置づけ、先手のポートフォリオマネジメントに挑む所存だ。この「先手」には、各事業の競争優位性、将来性を吟味し、先手で施策を実行し、資源配分を優先させ、成長事業をより強化していく意味合いがある。
―― 現時点でその先手、つまり成長戦略軸に見定めている事業は。
齋藤 バッテリー、受動部品、センサーである。この3事業は今後のGX、DXなどに不可欠であり、より一層商機・市場拡大が期待できると見込んでいる。あらゆる先手を打っていきたい。新中計では3カ年累計設備投資額として7000億円と前中計より控えめだが、内容的にはエナジー応用に約46%、受動部品に約29%、センサー応用に約12%とこの3事業が主軸であり、メリハリのある投資を実行していく。
―― 各投資の進捗は。まず受動部品から。
齋藤 受動部品では中長期的なxEVの伸長に対応すべく、MLCC(積層セラミックコンデンサー)と一部フィルムコンデンサーを中心に投資を行っていく。MLCCでは総額約500億円を投じて建設した北上工場(岩手県北上市)敷地内の新製造棟が24年4月から稼働を開始し、ステップバイステップで生産能力を引き上げている。25年度には生産能力が20年度比1.9倍へ高まる見込みだ。MLCCへの投資はこれで終わりではなく、xEVの成長度合いをしっかりと見極めながら、次の投資タイミングを決定していきたい。
フィルムコンデンサーはインドのナーシク工場に建屋が完成し、ちょうど稼働を開始した段階にあり、25年度に21年度比約2倍へ生産能力を高めていく予定である。こちらも同様に、需要見合いで次の投資タイミングを見極めていく。また、インダクティブデバイスもフィリピンで増強中だ。
―― センサーは。
齋藤 成長ドライバーと見込むTMR磁気センサーの増強がTDK浅間テクノ工場(長野県佐久市)で進んでいるほか、xEV向けを中心に伸長している温度センサーについては、ハンガリー工場で能力拡張を進めている。これもステップバイステップで能力アップを図っていく。また、先手という点では、24年7月末に新会社「TDK SensEI」を設立した。当社のセンサーとAI機能を融合させ、エッジ領域でソリューションを提供していくというソフトウエアドリブンのビジネスに新たに挑むものとなる。エッジAIで各種設備やインフラの予知保全を実現する画期的なAIソリューションを創出していく。
―― バッテリーは、小型2次電池(LiB)でインド市場を強化しています。
齋藤 中国の重要性はこれまでと変わりなく、引き続き地産地消に注力していくが、昨今の地政学的側面を考慮し、チャイナプラスアルファとして、インドに大規模な新工場を新設中であり、第1期工事がほぼ予定どおり進行している。25年夏あたりにその新工場が完成し、25年夏~秋くらいに稼働を開始する。小型LiBでは世界シェア5~6割でトップを堅持できており、今後も世界をリードしていく。
―― 小型LiBではシリコン負極の先端技術でも先行されています。
齋藤 小型LiBはコモディティー化したとの見方が一部にあるが、テクノロジーの進化は続いており、シリコン負極によるエネルギー密度は高まり続けている。当社も24年夏にシリコン負極の第2世代(Gen2)品の量産出荷を開始し、従来比でエネルギー密度10%改善を果たした。そして次のGen3品の開発にも着手しており、25年夏ごろから量産開始を目指している。Gen3品ではGen2品からさらにエネルギー密度を5%改善し、従来比では15%のエネルギー密度向上が図れる見込みだ。ハイエンドスマホで採用が増加しており、ノートPCやタブレット端末などにも用途が広がる可能性がある。
―― 全固体電池でも新材料開発に成功されました。
齋藤 全固体電池「CeraCharge」の次世代品として、従来品比約100倍のエネルギー密度(1000Wh/L)を実現する新材料の開発に成功したことを24年夏に公表した。次のステップとして、25年度末までにサンプル出荷を開始し、2~3年後の量産開始を見据えていくことになるだろう。長期目線で進めていく。
―― 中型LiBはCATLとの合弁会社(JV)での成長を目指しています。
齋藤 中型LiB市場は小型LiB市場の約4倍であり、家庭用ESS(電力貯蔵システム)向けがメーンアプリケーションとなる。そのほかにもドローンや電動工具、Eバイクなど用途の広がりも見えてきている。中型LiB市場でもJVで世界ナンバーワンのポジションを射止めていきたい。
―― M&Aへのお考えを。
齋藤 23年度までにキャッシュを創出できる体制が整ってきた。そのため新中計では成長戦略事業のバッテリー、受動部品、センサーを補完できるような、当社のフェライトツリーを成長させていけるような、そんなM&Aであれば積極的に検討していきたい。
―― 最後に25年の展望を。
齋藤 不透明なマクロ環境のなかでも、各従業員を含め全社で「自力」を上げていくことに尽きる。それが会社の競争力の源泉となる。トランスフォーメーションしていく主役は「人」であり、従業員一人ひとりのトランスフォーメーションの合計が「TDK Transformation」そのものである。各自のエンゲージメントを向上させ、自分事化の風土を醸成し、TDK一丸となって協働する、そんな一年にしていきたいと考えている。
(聞き手・高澤里美記者)
本紙2025年1月23日号1面 掲載