台湾の基板業界が活況を呈している。直近の決算発表では、大手企業でありながら「年率2~3割成長」や「過去最高」の文字が躍っている。世界最大の基板メーカーであるZhen Ding Technology(ZDT)は、2024年7~9月期売上高が前年同期比21%増の506億台湾ドルと大幅増収を果たした。また10月の売上高(速報値)も前月比8.4%増の209億5300万台湾ドルとなり、同社史上2番目の高水準に達した。単月売上では今年最高となり、主力のスマホ用に加えてパッケージ基板事業が軌道に乗り出しているという。さらに、自動車/サーバー/基地局事業の売上高は、過去最高を記録した。
台湾の大手リジッド基板メーカーのGCE(GOLD CIRCUIT ELECTRONICS)も業績拡大が続く。1~9月の累計売上高は前年同期比34%増の289億台湾ドル強となり、驚異的な成長を遂げている。成長を支えているのはAI(人工知能)サーバー向けのビルドアップ(HDI)基板だ。
24年の台湾基板市場が8300億台湾ドル台に回復
TPCA(台湾プリント回路工業会)は今年9月、24年の台湾基板生産額が前年比8.3%増の8337億台湾ドルに回復する見通しであることを公表している。特に4~6月期は前年同期比12.7%増の1908億台湾ドルとと成長を加速させている。AIや衛星通信、自動車向けに需要が好調に推移していたところに、足元ではスマホ関連の作り込みが本格化しており、下期の市況も現在のところ期待どおりの展開となっている。
4~6月期のIC基板は前年同期比2.6%増に転じたが、主にスマホとメモリーの回復によるものとしている。一方、パソコンとネットワークインフラの需要は依然低調で、高性能ロジック向けのFCBGA基板の回復が遅れている。
多層基板は、AIサーバーによる需要が好調で同13%増となった。AIサーバー、低軌道衛星(LEO)、自動車用途が牽引するHDI基板も同21.2%増と最も高い成長を記録した。フレキシブル基板とリジッドフレックス基板も、自動車とスマホ市場の回復により、それぞれ12.8%ならびに19%の成長を遂げた。
LEO向けでは、地政学リスクの高まりや災害対策などで旺盛な需要があり、売上高が倍増する事例が増加した。ハイエンドのコンピューター分野は、AIサーバー需要と一般サーバー市場の回復により、前年同期比で11.2%成長した。EVに後押しされた自動車は、同11%成長した。特に中国市場ではEV販売が依然好調で、同国にはもともと台湾系列の基板メーカーが多数進出しており、中国市場における台湾基板メーカーとは切っても切れない関係にある。
先端電子機器製造のエコシステムを構築
ここにきて台湾の基板業界がいち早く力強い回復を見せているのは、同国のエレクトロニクス(最終)製品を組み立てる企業の存在が大きく関係している。2000年代に入ってから、半導体や電子部品を大量に消費してきたパソコンをはじめスマートフォンなど、最終電子機器製造の大半を担ってきた企業群が台湾に集中している。いまでは世界最大のEMS(エレクトロニクス製品の受託製造サービス)企業であるフォックスコン(鴻海)をはじめ、ペガトロンやコンパルなど、パソコンやスマートフォンなどの組立製造で有力なEMS企業が同国にひしめいている。
決して好調とは言えない足元のエレクトロニクス産業界にあって、唯一我が世の春を謳歌しているといってもよいAIサーバーの市場においても、やはり台湾EMS企業の存在感が高い。インベンテックやMiTAC、クアンタ、ウィストロンなどの大手どころが集積している。特に鴻海も直近の決算において、24年1~9月期までのAIサーバーの累計売上高が1年前と比較して200%以上増加したとしており、同社の業績拡大を牽引している有力アプリケーションであることを強調している。AIサーバーの強い需要は今後も続くと予想、24年はサーバー売上高全体の4割強を占める勢いだという。
AIサーバー関連ではGPUモジュール以外にも、高性能スイッチ、液体冷却システムなども一括して受託するビジネスモデルを推進中だ。次世代のエヌビディア製GB200製品の出荷も若干の遅れが発生しているものの、出荷が25年1~3月から本格化するとみられる。エヌビディアはこの最新GPUモジュールを搭載したAIサーバーも自ら手がけているが、その大半は鴻海に製造委託しているといわれている。
こうした現在最も活況な最終電子機器の製造を支える企業が台湾に集積していることに加え、搭載される基板を手がける企業もまた台湾勢の牙城という構図になっている。鴻海の基板子会社でもあるZDTもサーバー用基板に注力しており、地政学リスクに配慮してタイでも新工場を建設中だ。サーバー用基板市場では前述のGCEに加え、WUSやコンペックなどの台湾基板メーカーが大きなシェアを占めている。
一方、AIサーバー基板に最適な基板材料(CCL)には、通常のFR4(ガラスエポキシ)ベースではなく、高速伝送対応が不可欠となり、低伝送損失材料がマストとなる。ローロスやベリー・ローロスといった低損失基板材が必要になる。従来であればこうした特別な基板材料は日系CCL企業と相場は決まっていたが、昨今はその影も薄く、ここでも台湾勢が大きなシェアを確保するようになった。低伝送損失材料の主要サプライヤー群にも台湾勢が名を連ね、ITEC、EMC、TUCで同市場の半分強にのぼるようになった。巨大な最終顧客の近くに部品や材料企業も引き寄せられているのだ。同じ言語でコミュニケーションをとれるし、研究開発や市場が近くにある方が開発スピードや市場形成が容易だからだ。
台湾は、強力なEMSモデルを展開することで、最終エレクトロニクス製品を頂点に、そこに搭載される基板~基板材料など、エレクトロニクス全体の強力なエコシステムの構築を国内に完成させている。今後とも世界の需要をいち早く取り込み、自分たちの成長につなげていくであろう。
電子デバイス産業新聞 特別編集委員 野村和広