縁petit(株)(東京都北区)は「サーモンnoodle3.0」などのフレンチラーメンを展開する。斬新かつ繊細なフレンチラーメンは多くのファンに支持され、坪月商40万~60万円を売り上げる繁盛店だ。2024年からは緻密な戦略とノウハウを基にFC加盟店の一般募集を開始し、海外にも出店する。代表取締役の丸尾聖氏に聞いた。
―― 沿革や経緯から。
丸尾 私は以前、小さなバーを運営しており、繁盛していたが、バーは“人に付くビジネスモデル”で、100店出すためには100人の優秀なバーテンダーが必要となる。“商品に付くビジネスモデル”でなければ拡大は難しく、100店に増やせる業態を検討した結果、国内外で人気が高いラーメンに行き着いた。ただ、ラーメン市場でチャンスがあるのは女性マーケット。ラーメンの売り上げは男女比8対2。女性は2割しか取れていないので、女性市場を取れば競合店と戦うことなく勝てる。
―― 女性向けのラーメンやそのビジネスモデルは。
丸尾 男性向けラーメンは量が多くて油っこく、おしゃれではないイメージ。こうした「黙って食え」的な文化慣習を崩すことが必要で、油ギトギトの汚いカウンターではいくら美味しくても美味しいと感じない。女性に美味しいと思ってもらうためには、洗練された空間で座りやすいイスに座り、会話をしながら召し上がっていただく。そしてストーリー。誰がどんな食材をどういう調理工程でつくったのかを表現するのが重要。そして次世代ブランドとして魚介類を使った。鯛、ウニや牡蠣、海老、蟹など現在13ブランドを揃え、20ブランドにまで拡大する。
業態開発にあたっては、まず実験店をつくり、ミシュラン2つ星のレストラン副料理長の人物を中心に、料理人チームとともに麺やスープを作り「受ける・受けない」の内容をデータ化した。スープはセントラル工場で生産する。これをパッケージ化してFC展開する。FC契約だが、パートナー契約との認識で、パートナーが勝てるようにするためにそのエリアで流行る形に整える。
―― ブランド数を多く持つ理由は。
丸尾 リスクヘッジのためで、流行らなかった時にブランドを切り替えられる。20ブランドあるので20回新たなブランドに挑戦できる。ラーメン店からラーメン店に切り替わる例は多く、自社でやればほとんど手出しがなくリスクが少ない。ラーメンは年間5割廃業するといわれるが、投資回収が我々のコミットなので、我々は10年で50%が継続できることを目指している。
―― ブランド変更の際、内装も変えますか。
丸尾 2回ほどブランドを変更したが、投資額は看板とHPとポップメニューで、計50万円程度で済む。イスやテーブルを含めて空間はそのまま使う。初めから店内をきれいにつくっておけば、それが違うブランドになっても、あの店は同じ空間だから行かないとはならない。ラーメンは一杯1000円前後。オープン景気が必ずあるので、50万円くらいは回収できてしまう。その後にファンがつくと繁盛店になり、安定期に入る。
―― 店舗の状況は。
丸尾 女性の客層は平均で5割を取れており、神楽坂にあるサーモンヌードル店は女性客が7割だ。
―― FCへのサポートは。
丸尾 加盟店は必ずしも料理ができるわけではない。我々がいなくても調理できるようにする必要がある。ベトナム人の女性3人で店舗運営ができるかを実験中だ。我々がつくる10坪売上高500万円よりも、500万円をベトナム人の女性3人で達成できればより高い価値が生まれる。日本語習熟度が高い人を接客担当、片言レベルの人は厨房に配置し、5カ月運営しているが売り上げは落ちていない。ラーメンをつくったことがない若いベトナム人女性でも運営でき、これは投資案件として魅力だ。「商品」「コンテンツ」「場所」「人」を集めれば店になるビジネスモデルだ。
―― 海外展開については。
丸尾 タイと台湾にあり、タイは8月、台湾は9月に開業した。インドネシアは10~11月に開業する予定。そのほかタイ、米国で出店を予定している。
―― 飲食店経営が見えていますね。
丸尾 なぜ人が来てくれたのか、なぜ来てくれないのか、そこに注目してきた。スタッフの問題なのか、商品力が足りないのか、空間、場所や立地の問題か。いわば人間の健康診断みたいなもので、どこが悪いのかが分かれば治療できるが、原因が分からなければ治せない。
―― FCの現状は。
丸尾 先ごろFCの一般公募を開始した。当社はロイヤリティを取らず、食材卸がメーン。食材が売れるほどコストダウンができ、利益が出るので、売れるためのノウハウを提供する。FCで儲けることは考えていないし、上場も考えていない。10年パートナーと続く店づくりをしていきたい。
―― FCオーナーが2店目以降を希望する場合は。
丸尾 オーナーに推奨しているのは、ブランドが同じなら場所を変える、同じエリアならブランドを変えることで、それぞれにファンがつく。マーケットや顧客の取り合いではなく、自分の顧客を増やしていきながら、その顧客を他にも回していく新しいドミナント戦略ができる。
―― 最後に一言をお願いします。
丸尾 日本ではその価値に気づかずに廃棄される食材が多い。我々は魚のアラといった未利用食材をスープに活用し、美味しいラーメンに変えることで価値化している。すると商売の目的、意義が明確化される。器も同様だ。ろくろでつくる器は値段も高いし割れやすく店舗では使いにくい。良い器でも知らなければ売れない。知ってもらうきっかけをラーメンが担えれば。ろくろでつくった器に盛り付けることで、ラーメンが映えて、価値が一層高まる。それを加盟店が気に入って購入につながるなど、ステージがどんどん広がる。技術や職人が残り、そしてラーメンに新しい価値が生まれることを目指したい。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2565号(2024年10月1日)(8面)
経営者の目線 外食インタビュー