「ホテル御三家」の一角を担う(株)ニュー・オータニ(東京都千代田区)は、9月に創業60周年を迎えた。直営3施設(東京・大阪・幕張)に加え、グループ会社を通じて札幌、博多、北京など、国内外で16施設を展開している。IPコンテンツとのコラボやヒノキ風呂の導入など、唯一無二の客室がインバウンドを含め幅広い宿泊客を引き付けている。同社広報課長の片岡慎一郎氏に、事業の概況や直近での取り組みについて聞いた。
―― 足元の状況は。
片岡 全体として、インバウンドの効果もあり売り上げは伸長している。新型コロナが5類に移行してすぐは欧米からの観光客が中心だったが、今ではアジア圏からのお客様も戻ってきている。特に台湾、香港、シンガポールなどからのお客様が増えている印象だ。
―― 稼働率としては。
片岡 具体的な数値は申し上げられないが、コロナ前(18年度)の水準に戻りつつある状況だ。また、客室単価も上昇傾向にある。これまでスタンダードルームで十分だったお客様がデラックスルームやスイートをご利用されるようになり、また家族・親戚一同など、1組あたりの人数も増えている。
―― IPコンテンツとコラボした客室が話題を呼びました。
片岡 コロナの流行で遠出がはばかられた時期に、近郊にお住まいの方に楽しんでいただける機会を作れないかという思いからスタートした。客室内の装飾から特典ノベルティ、レストランとのコラボメニューに至るまで幅広く展開し、ご好評いただいている。コンテンツによっては即完売することもある。専属のスタッフをつけており、コラボできるコンテンツを常に探している。
コロナ禍にはヒノキ風呂常設の「新江戸ルーム」も人気だった。もともと東京オリンピックに向けて外国人をターゲットに作った部屋だったが、インバウンドの需要はなくなってしまった。しかし、遠出ができない日本人に温泉旅行気分を味わっていただけると関東近郊のお客様の利用が増え、ほかの客室に比べて稼働率が高かった。現在、ヒノキ風呂常設の客室は東京でシングル、スタンダード、デラックス、スイートとラインアップを増やし、50室を超える。また、7月には大阪にもヒノキ風呂付きの大人数向けの部屋を新設し、ご好評いただいている。
―― こうした企画を行う理由は。
片岡 創業当時から継承され、スタッフの意識に刻まれているDNAのようなものがそうさせている。ニュー・オータニは1964年の東京オリンピックに合わせて建てられたホテルだが、当時はホテル需要が今ほど旺盛ではなく、オリンピック終了後は稼働率が大きく下がった。この状況を打破するために、幅広い層に様々なシーンで利用いただけるための施策を打ち出し始めた。
以降、お正月プラン、受験生プランなど、様々な企画・プランを提案してきた。東京では、夏の季節に「ガーデンプール」をオープンしているが、99年からは「日焼けしないプール」として「ナイトプール」をスタートし、さらにSNSブームによりひとつの流行のきっかけを作った。他にはあまり見られないレストラン併設のプールで、今では親子連れのほか親・子・孫の三世代でのご利用も多い。いずれの企画も、その時代やお客様の生活スタイルの変化に合わせた新しいご提案により、人生に寄り添うサービスをご提供するホテルとして長くご愛顧いただけるよう心がけてきた。
―― そうした時代を経て、昨今は外資系ホテルの日本進出が相次いでいます。
片岡 外資系ホテルが増えることで日本という国への注目度がより高まることはプラスだ。我々としては気が引き締まる思いで、食事やサービスなどをよりブラッシュアップしなければという意識づけになっている。ホテルニューオータニにはより日本らしいホテルサービスが求められていると思う。日本の文化や歴史をホテルのサービスを通して体験いただきたい。
―― 設備投資の予定は。
片岡 客室を含め、施設内のソフトリニューアルや新江戸ルームをはじめとした新しい客室を作るなど、よりお客様に寛いでいただけるアップデートに取り組んでいく。9月からはイタリアの邸宅をイメージした宴会場「PALAZZO OTANI」のソフトリニューアルを実施。婚礼や宴席においてより洗練された会場のご提案をしていく。
―― 今後の抱負を。
片岡 創業60周年という大きな転機を迎え、引き続き様々なお客様にお選びいただけるホテルとして、これまでの伝統と培われたサービスにさらに磨きをかけていく。
(聞き手・安田遥香記者)
商業施設新聞2562号(2024年9月10日)(7面)