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第589回

(株)Preferred Networks 計算基盤担当VP 土井裕介氏/MN-Core事業経営企画室 担当VP 小倉崇浩氏


計算機クラスターを外部提供へ
独自プロセッサーの開発も加速

2024/8/23

(株)Preferred Networks 計算基盤担当VP 土井裕介氏/MN-Core事業経営企画室 担当VP 小倉崇浩氏
土井裕介氏
 (株)Preferred Networks(PFN、東京都千代田区)は、国内有数のユニコーン企業(評価額が10億ドル以上のベンチャー)として知られ、深層学習などの最先端技術を最短路で実用化することで、これまで解決が困難であった現実世界の課題解決を目指している。そのなかで独自のプロセッサー「MN-Core」(エムエヌ・コア)の開発も進めており、そのプロセッサーを搭載した計算機クラスターに関する事業展開の準備を進めている。今回、計算基盤担当VPの土井裕介氏と、MN-Core事業経営企画室 担当VPの小倉崇浩氏に話を伺った。

(株)Preferred Networks 計算基盤担当VP 土井裕介氏/MN-Core事業経営企画室 担当VP 小倉崇浩氏
小倉崇浩氏
―― プロセッサーの開発経緯から伺います。
 土井 当社では、深層学習などの最先端技術を活用し、製造、交通、小売、化学、材料探索、金融など様々な業界が抱える課題の解決につながるAIソリューションを開発・提供している。そうしたソリューションの開発に際して大規模な計算資源が必要であり、多量の計算を効率的に実行するために独自の計算機クラスターも開発している。そして、その計算機クラスターに搭載するAI処理用(深層学習を高速化するための)プロセッサーの開発も2016年ごろから行っている。

―― 開発品について。
 小倉 神戸大学の牧野淳一郎教授(現在は神戸大学の特命教授とPFNのVPコンピュータアーキテクチャ担当CTOを兼任)や、台湾のアルチップ・テクノロジーズなどと連携しながら、第1世代となる「MN-Core」(製造はTSMCの12nmプロセスを採用)を20年に発表した。そして、MN-Coreを搭載した計算機クラスターを構築し、社内の開発などに用いた結果、3次元モデルの復元、画像認識モデルの自動最適化、材料探索の高速化など、様々なAIワークロードにおいても高い処理速度を実現できることを確認し、20年6月~21年11月の間に、スーパーコンピューターの省電力性能ランキング「Green500」で世界1位を3回獲得した。

―― 直近の取り組みは。
MN-Core 2
MN-Core 2
 土井 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託業務として、演算性能を約3倍、電力性能を約33%高めた第2世代品「MN-Core 2」(製造はTSMCの7nmプロセスを採用)を23年に開発。第1世代品を搭載した計算機クラスターについては自社プロジェクト内の活用に制限していたが、MN-Core 2を搭載した計算機クラスターについては外部提供する計画で、24年内の本格的な市場投入およびサービスインを目指している。

―― その内容は。
 小倉 大規模言語モデルのファインチューニング用途などに、MN-Core 2を搭載した計算機クラスターの機能をクラウドサービスで提供することに加え、計算機をオンプレミスで提供することも計画しており、トライアルユーザーに対して9月から先行で提供する。また、当社が提供するAIソリューションにおいて、計算機クラスターをAI計算基盤として提供することなども計画している。先に述べたように当社の計算機クラスターは、様々なAIワークロードにおいて高速な処理を実現できることから利用者の開発期間を短縮でき、開発コストの低減などに寄与する。

―― 製造業とも親和性がありそうです。
 土井 少子高齢化が進むなか、高度な技術を有する職人の数も減少しており、勘や経験に依存しすぎない新たな製造現場の構築などが今後求められることになるだろう。そのなかで製造現場のDX化によって自動化設備の導入などが拡大し、AIを活用するための下地が整備されてきたとみている。そして今後、製造現場でのAIの活用が拡大することで、製造現場に計算機を設置する必要性も高まっていくとみており、当社の計算機クラスターの活用を含め、新たな取り組みを共に進めていただけるような方がいればぜひお声がけいただきたい。

―― 開発面では。
 土井 周辺ツールなどMN-Coreシリーズに関連するエコシステムの構築も非常に重要だと考えており、そうした取り組みも強化していく。また、MN-Core 2に続く第3世代品を26年ごろに実用化することを目指している。その一環となる研究プロジェクトとして、韓国のサムスン電子や半導体設計会社のGAONCHIPSとの取り組みを開始した。第3世代品については、最先端プロセスを用いたものが必要になると考えており、サムスン電子から2nm GAA(Gate All Around)プロセスや2.5Dパッケージ技術「I-Cube S」のターンキー半導体ソリューションといった技術の提案を受けながら研究を進めている。

―― 今後について。
 小倉 MN-Coreを搭載した計算機クラスターによって、様々なAIワークロードの高速処理が可能なクラウドサービスと計算機のオンプレミス提供、当社が開発したAIソフトウエアと計算機クラスターのセット提供など、当社の製品・サービス群がぐっと広がることになる。AIに関するソフトウエアとハードウエアを当社のレベルで垂直統合して、ソリューションとして提供できる企業は世界にもほとんどなく、MN-Coreシリーズの取り組みは当社の事業を拡大していくうえで、非常に重要な役割を担っており、具体的な数字は言えないが、今後の主力事業として高い事業目標を立てている。



(聞き手・副編集長 浮島哲志)
本紙2024年8月23日号3面 掲載

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