創業51年目の4月、(株)東急設計コンサルタントの社長に渋谷宗彦氏が就任した。前職の東急(株)では「たまプラーザ テラス」など、東急線沿線の多くの商業施設開発や運営、街づくりに携わってきた。こうした経験を設計会社でどう活かすのか。渋谷氏に今後の経営方針などを聞いた。
―― 経歴は。
渋谷 1989年に東急電鉄(株)(現・東急)に入社し、最初は住宅開発と施設修繕を担当していた。初めて商業施設開発に携わったのは入社10年目で、2000年に開業した東京都町田市の「グランベリーモール」(現・グランベリーパーク)だった。98年、社内の若いメンバーによるプロジェクトチームが立ち上がったが、当時、日本にはアウトレットはほとんどなく、米国のアウトレットモールを徹底的に研究した。
その後、「たまプラーザ テラス」「二子玉川ライズ」の開発に従事した。「ライズ」では1期の運営と2期の開発・開業を担当したのだが、運営に関わることで、開発で見過ごしがちな部分に目を向けることができた。1期の施設を検証し、改めて2期のお客様の集う空間に必要なハードを見直した結果、スケートリンクの敷設やビアガーデン開業が可能となり、施設の価値を高められたと思う。その後、15年に渋谷ヒカリエの運営、渋谷キャストの開業準備を統括し、17年に渋谷スクランブルスクエアに出向して開業から運営に携わり、23年に東急設計コンサルタントに着任した。
―― 運営に携わるメリットは大きいですね。
渋谷 計画と開発があって、次に運営がある。当社は企画設計から事業完成までの目線で「川上から川下まで」という表現を使っていたが、設計から完成、運営、そしてその施設の更新としてのアップデートを意識するように、と意識改革を行っている。
また、設計・デザイナーが描くパースには、なぜ建物しかないのかと違和感があった。ライズ2期を開発する際、指示したことは、人々が施設をどう利用しているかのシーンを描き、関係者と共有することであった。
―― 今の商業開発や街づくりをどう見ていますか。
渋谷 街それぞれに個性があり、同一のパッケージでまかなえる時代ではない。加えて、開発が一巡しており、街をどのようにバージョンアップしていくか。当社が創業時から大事にしてきているのは、沿線を中心とした持続可能で成長を続ける街づくりである。成熟した街にも更新性が問わる時期がある。単に施設設計を担うのではなく、その場所が生む、街としての機能と、その効果、そして将来性のイメージが大切である。事業者とは、プロジェクトとして対応する部分とその位置づけについても十分に議論し設計を進めるように社員に伝えている。つまりは、街のブランディングである。たまプラーザのように子育て世代が沿線開発のバージョンアップで帰ってくる仕掛けづくりができるかも求められる。
用途の空間概念と使われ方に変化が進んでいると感じている。オフィスのようなカフェもあれば、その逆もある。ホテルの中のロビーが宿泊者だけのものではなくソーシャライズの空間となっていたりと、作り手は固定概念で施設を作り込みすぎてはいけない場合もある。使い手側のライフスタイルをイメージし、プロデュースできる設計集団でありたい。
―― 今後のかじ取りは。
渋谷 今後リノベーションや建て替えが増えることから、街のバージョンアップに貢献したいと考える。当社HPに「お客様の夢の実現をサポートする企業として私たちの技術をつむぐ!」を掲げている。今後も積極的な提案を行っていきたい。
―― そのために必要なことは何でしょうか。
渋谷 当社は鉄道、商業、住宅、ホテルを多く手がけている。用途ごとに部門が分かれており、用途別の比率はほぼ均等だ。東急沿線開発の実績などが評価されて、グループ外から仕事をいただくことが増えており、グループ外の案件が7割に達している。各用途にプロフェッショナルが育っているが、用途の壁を越えれば新しいアイデアが生まれ、さらに魅力的な設計会社に進化すると確信している。
―― 1+1が3ですね。
渋谷 そのとおりで、用途、世代を超えてそれぞれがフランクにアイデアを出し合える環境の中、タイムリーな情報共有を可能とすることで視野・スキル・人脈も拡がる会社としていきたい。
―― 今後の抱負を。
渋谷 当社に着任した際、設計業界においても技術者不足に衝撃を覚えた。より丁寧な企業アピールと人材育成が急務と実感した。お陰様で当社の東急沿線の開発実績を見て、入社を希望する人は多い。最近、社員の活躍の見える化の一環で、当社のHPで社員が担当した建物をバックにした写真を掲載している。社員の家族から喜ばれたと聞くことがあり、嬉しく思う。当社の新たなステージとなる51年目、今まで多くの街づくりに携わることができた。「あの魅力的な施設がある街を設計した会社にお願いしたい」と言われ続ける会社であり続けたい。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2554号(2024年7月16日)(1面)