しゃぶ禅(株)(東京都新宿区)は創業当時、しゃぶしゃぶ食べ放題を導入し、高級感あるしゃぶしゃぶをリーズナブルな価格帯で提供し、話題を集めた。現在はしゃぶしゃぶ・すき焼き専門店の「しゃぶ禅」、胡麻だれ担々うどん中心のうどん専門店の「ごまいち」を運営する。2023年12月に創業40周年を迎え、今後の展開などを代表取締役社長の菅野雄介氏に聞いた。
―― これまでの経緯から。
菅野 私の父が1983年、東京・六本木に「しゃぶ禅」の1号店を開いた。当時、国産牛のしゃぶしゃぶ食べ放題はなく、連日行列ができていた。父は豪放磊落な性格で、価格設定や粗利などにあまり頓着せず、食べ放題ならこのくらいの値段でお客様は喜ぶだろうと、そんな運営スタイルだった。
しゃぶ禅はノヴァグループの1事業会社で、当時本業は六本木を中心にディスコを運営していたが、バブル崩壊で下火になり、閉店も増加した。しゃぶ禅は安定していたため、不振店をしゃぶ禅に業態転換した例も多かった。私は大学を辞め、ノヴァグループに入社したころで、経営は厳しい状況にあり、以来しゃぶ禅を中心に舵を切った。
―― 17年に社長に就任します。
菅野 その当時、管理体制が不十分で、接客やメニューの内容などがずさんになっていた。お客様からの評価も芳しくなかったが、美味しいしゃぶしゃぶの食べ放題ということもあって、お客様はついてきてくれていた。私が経営に携わるようになってからは顧客満足度を高めるため、徹底的に改革した。
―― 貴社ではセントラルキッチンを採用していません。その理由は。
菅野 すべての食材を各店舗で仕込んでいる。セントラルキッチンは味の統一や大量仕入れでコストを抑えられる効果はある。だが、店舗でも確実な管理体制があればコストを抑えることができる。現在、材料費が高騰しているが、各店の仕込みでコストを抑えている。例えばたれはしゃぶ禅の生命線。1日数十L使うので、毎日各店舗で仕込んでいる。かつてたれ製造を外部委託することを検討したことがあったが、満足のいくものができなかった。競合のしゃぶしゃぶ店に行った際、お客様に支持されているのは当社のたれだと再認識した。
―― 店舗体制は。
菅野 計14店で、うち直営はしゃぶ禅が5店、ごまいちが3店ある。FCは以前働いていたスタッフが独立して運営している。業務内容を熟知しているので、独立によるFC展開を認めている。
―― 出店計画について。
菅野 24年は地固めの年とし、出店に向けた人材育成の年とする。25年は出店を考えたい。現在の外食業界は閉店が多いことから、居抜き案件を活用する。
―― 店舗サイズは。
菅野 平均は70~80坪だが、今後は若干小型で展開したいと考えており、50坪程度が望ましい。ただ、その点は柔軟に対応する。物件が出てきたら、それに合うしゃぶ禅をつくる。つまり店舗それぞれが1つのブランドになっており、中には渋谷店には行くが、六本木店は合わないというお客様もいるほどだ。
―― 出店エリアは。
菅野 東京都内の店舗が少ないので、都内の出店を強化する。「しゃぶしゃぶ」で検索すると低価格チェーンが検索上位に来る。しゃぶ禅は上位になく、客単価2000~3000円の店に負けている。当社が美味しいしゃぶしゃぶを提供しても認知度は低い。美味しいしゃぶしゃぶと言えばしゃぶ禅が上位に来るようにしたい。少なくとも東京ではそうありたいと考えており、都内への出店が必要だ。
―― 業績は。
菅野 直営店の売上高で14億円前後とコロナ前に戻ってきているし、今期も黒字を確保できそうだ。
―― 今後目指すものは。
菅野 おいしいのは当たり前で、お客様から「美味しい」と言われるのは誉め言葉でないと思っている。我々の生命線は接客にあると思う。そこを高めればおのずと結果はついてくる。マニュアルはないので、目の前のお客様の求めることを先回りして提供する。「食べ放題なのにここまでするのか」という価値や信頼を獲得したい。そして、しゃぶしゃぶ食べ放題といえばしゃぶ禅が真っ先に浮かぶようにしたい。
―― 今後の抱負を。
菅野 BSE、リーマンショック、東日本大震災、そしてコロナ禍を経て、今40周年を迎えられた。ただコロナ禍で営業的に無理をした部分もあるのでその歪みが若干残っているし、人手不足でもあるため、今後も積極的に採用する。そして働いているスタッフの待遇をさらに厚くしたい。しゃぶ禅は飲食業界の中で待遇が高水準と思っていただけるように給与、休暇、働きやすい環境を整えたい。現時点ではまだ不十分な面もあるが、安心して来てくださいと胸を張って言えるように次の10年は取り組んでいく。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2554号(2024年7月16日)(8面)
経営者の目線 外食インタビュー