KOTOBUKI Medical(株)(埼玉県八潮市中央4-7-3、Tel.048-951-5211)は、創業6年目になるスタートアップ企業。同社が独自開発したこんにゃく粉を主成分とする革新的な医療トレーニング用模擬臓器のVTT(Versatile Training Tissue)などの医療関連機器の開発・製造・販売を手がけており、2023年度には売上高2億8000万円を達成し、黒字転換を果たしている。
同社は金属や樹脂部品の加工・組立を手がける(株)寿技研を母体としている。寿技研はRCカー用スポンジタイヤの製造ではトップの技術を有しているが、受注型の下請けの仕事を中心としていた。そのため、リーマンショック時に受注が激減。「加工技術で何でもできるが、特に優れている点がなく、特色がなかった」(KOTOBUKI Medical 代表取締役 高山成一郎氏)。
KOTOBUKI Medical 代表取締役 高山成一郎氏
その後、友人からの紹介で、手術用練習機器の開発に着手。当時1台数百万円する機器がトレーニングセンターなどにあったが、医者個人用の練習機器がなかったため、これを開発した。当初、ネットショップでの販売などを行ったが、あまり反応がなかったため、学会にブースを出展し製品をアピール。これにより、一気に販売が伸びるとともに、ユーザーである医者から様々な要望が出てきたため、これに対応した製品を開発し、製品のラインアップが一気に拡充した。
しかし、このトレーニングBOXは、市場に限界があり、ユーザーに製品がいきわたると売れ行きが伸び悩むという課題があった。
その課題を解決するため、常に需要がある消耗品に着目し、人工臓器の開発に着手した。当時手術の練習用には豚の臓器を使用していたが、多くの問題があり、通常の使用には適していなかった。また、人工臓器を製造するメーカーもあったが高価なものとなっていた。
「当時レバ刺しの食中毒事故を受け、こんにゃくをレバ刺しの代わりに提供するところがあり、これをヒントにこんにゃくで人工臓器を製造することを思いついた」(高山氏)。その後、開発が進み製品化に成功するが、「評判はいいが売れない」(高山氏)という状況が続いた。
この状況を打破し、ベンチャーキャピタル(VC)などからの出資を得るため、医療関連機器部門を寿技研から切り分けてベンチャー企業として独立する。VCからの出資はなかったが、半年後にクラウドファンドで、1口10万円で出資を募り、開始後5分で3000万円、1日で設定の上限額の9000万円を達成した。クラウドファンド終了後、銀行などの出資も得ることができ、これにより優秀な人材を集めることもできた。
VTTは、人体組織によく似た触感と強度、伸縮性を持ち高温にも耐えられることから、電気メス、超音波メスといったエネルギーデバイス、鉗子操作や縫合にも対応。強度、硬さ、伸縮性、色、形状も自在に変えられる。
現在の工場は熱帯魚店の店舗だったところを改装して使用している。「もともと工場として使用している施設を探していたが、衛生面などで課題があり、現在の施設を見つけた」(高山氏)。2階建て延べ床面積約600m²の施設で、1階は製造設備および倉庫、2階はオフィスとして使用している。VVTはこんにゃく粉などの材料を混ぜて、加熱、加工などを経て製品化する。レストランなどの厨房にあるような機械で対応でき、工場の立ち上げには機械などに約5000万円を投じた。生産エリアは3部屋あり、1部屋で月1000万円の生産を目標としている。
高山氏は「現在の施設では年間3億円程度の生産が限度なので、25年度には工場をもう1カ所設置する。その後、自社工場の建設も検討していく」と語っている。