デンカ(株)(東京都中央区日本橋室町2-1-1、Tel.03-5290-5055)は、五泉事業所鏡田工場(新潟県五泉市木越字鏡田1359-1)に抗原迅速診断キットおよび検査試薬の製造用新棟「58号棟」を竣工した。1月から一部稼働しており、4月に正式稼働、5月に竣工式を実施している。
五泉事業所は、1950年にワクチン・血清などの製造販売を目的に、東京芝浦電気(株)(現(株)東芝)の100%子会社として設立。79年に電気化学工業(株)(現デンカ)の子会社となり、2020年にデンカと合併している。鏡田工場のほかに、新潟工場(五泉市南本町1-2-2)を有しており、鏡田工場は検査試薬の開発・製造、新潟工場はワクチンの開発・製造を行っている。
鏡田工場の敷地面積は約6万5000m²、延べ床面積は約5万3000m²、4月1日現在の従業員は611人となっている。免疫血清検査試薬、臨床化学検査試薬、細菌検査試薬、ウイルス検査試薬、POCT(Point Of Care Testing)検査試薬の開発・製造を行っている。24年度五泉事業所の全体の売り上げは430億円で、ワクチンよりも検査試薬の売り上げのウエイトが高くなっていることからも鏡田工場の重要性が見て取れる。
今回建設された新棟は、4階建て延べ床面積約1万4000m²、吹き抜けとなっている自動倉庫部分を各フロアーに換算すると延べ床面積は約1万7000m²となる。新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、拡大する需要に応えるため22年4月に生産能力増強を決定。当初投資金額は約110億円を想定していたが、資材の高騰などの影響を受け、投資額は関連設備を含め約122億円に膨らんでいる。工期に関してはほぼ当初計画どおりの竣工となっている。この投資には経済産業省「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」による助成を受けることが決定している。
58号棟には、入庫・出荷に対応する高さ33mの巨大な自動倉庫、中間体を保管する自動倉庫、冷蔵の自動倉庫の3つの自動倉庫を導入し、工場内の倉庫機能を集約。MES(Manufacturing Execution System=製造実行システム)やLIMS(Laboratory Information Management System=品質管理システム)を導入し、工場内の動線の最適化を実施した。新棟への生産ライン導入および既存棟での設備増強により、抗原迅速診断キットの生産能力は約2.5倍、検査試薬は約2倍に増強されている。
POCT製品は、浮遊液、フィルターなどをセットにしたキットで出荷している。従来はベルトコンベアの脇に人がならんでそれぞれの中間体を箱詰めしていたが、新棟では自動倉庫で保管されていた中間体を天井搬送し、自動で箱詰めする体制を整えた。また従来、箱詰めされたキットは人手により、出荷用の段ボールに詰められていたが、この工程も自動化し、出荷用の自動倉庫に送る体制を構築している。
POCT以外の検査試薬は少量多品種の製品も多く、装置導入のメリットが少ないため、人手による作業も多く残されている。しかし、ここでも自動化対応は進めていく方針で、近くピッキングシステムを導入する予定だ。
同工場の今後について五泉事業所副事業所長 鏡田工場長の松井寛史氏は「今回の大型投資により、将来に向けた投資は一段落した。当面は58号棟とMES、LIMSをいかに上手に活用していくか、今のインフラを有効に使うかが課題となる」としている。今回の新棟建設で同工場の敷地には余裕がなくなっており、BCPの観点からも次の大型投資は、別の場所での立地も視野に入れるもようだ。
(編集長・植田浩司)