(株)田中医科器械製作所(東京都北区田端新町2-14-18、Tel.03-3894-7810)は、創業から100年を超える老舗医療機器メーカー。整形外科手術器械を中心に主にステンレスを使用した鉗子、剪刀、ペンチ、のみ、やすり、ピンセットなど1800種類の製品や800種類の特注品を製造している。
工場は本社工場の他に、近隣に第2工場を所有。本社は「合わせもの」と呼ばれる複数の部品を組み合わせて作る製品がメーン。「一本もの」と呼ばれる刃物は第2工場で主に製造している。
本社・工場は敷地面積441.11m²、3階建て延べ床面積800.97m²。工場は1階にあり、2階は検査、包装、物流のエリアで、トレーサビリティ用のマーキングも実施。1000種類程度取り扱っている規格品も2階の倉庫に在庫している。
3階は設計部門となっている。同社の設計部門は、他メーカーで製造中止となった製品のリバースエンジニアリングと大手メーカー向けの製品の開発品などを担当している。また、購買や部品管理部門なども3階に設置している。
1階の工場は、4軸・5軸の加工機、ワイヤー加工機、レーザー加工機などがあり、1次加工はこれらの機械を使用して行っている。その後は各職人が各自のデスクで成型などの加工を手作業で行い、製品まで一貫して担当する。「工程ごとに担当を分けるのではなく、各職人が一貫して製品を作れるようにしている。これにより、職人が独立して働くことを可能にし、自分の生活にあった働き方を選択できるようにしている」(取締役製造部部長 安全管理責任者 武井恵一郎氏)。
通常、機械で大量生産する製品は、部品を組み合わせる部分に余裕を持たせることで、確実に組み合うように設計されている。同社の製品の場合、1次加工後の部品同士では、組み合わせることができず、接合部を手作業で加工することで、組み合わせができるようにしている。これにより、製品のがたつきが抑えられ、精密な作業に対応できるような製品が完成する。職人が手作業で製品を製造することで、精度が上がり、付加価値の高い製品を生み出している。「同業者がかたちを真似た製品を作るのは簡単だが、当社には手術時に使用する医師の側のノウハウと、材料のノウハウを有しており、これを組み合わせることで差別化を図っている」(武井氏)。
また、整形外科は新しい分野の医療なので、医師も新たな技術に挑戦するための道具を新規に作成する必要がある。新たな道具を製造する場合、通常では設計図を作成し、それを数値化して機械で加工するが、同社の場合、医師の要望に対応し、職人が設計図なしで製作することも可能だ。「もともと、医師のテクニックを数値化することは難しい。医療機器メーカーとして、営業担当には医師が作りたいものを職人にしっかり伝えられる体制を構築していきたい」(武井氏)。
同社では現在、生産の効率化を進めている。工場のスペースが限られているため、設備投資ではなく、レイアウトの工夫や人材への投資で効率の改善を進める。生産管理部門を新たに設置し、サプライチェーンを構築していく方針。職人が製品の製作以外の仕事にとられる時間を減らしていく。また、職人ごとに別々に発注していた部品をまとめて調達し、同じ製品を製作するのにも職人ごとに加工方法が違ったなどの課題を徐々に解決し、コスト削減につなげている。「今まで職人任せにしていて、生産効率的に良くないところが多々あったので、これを改善すれば利益面での伸びしろが多い」(武井氏)。
また、技術継承ができる体制作りも進めている。「山手線沿線という立地から、求人への反応も良く、職人が集まってくれている。今後は、この職人の技術を若手に継承していくことが課題となる」(武井氏)としており、工程を明確化し、それぞれの職人がどのような作業を行ったかを記録するようにした。24年からは5S活動も開始し、どこよりも安心・安全な工場としていく方針で、職場環境の改善にも努めている。
武井氏は「医療機器のラストワンマイルは職人が担当しているので、職人を残したという当社の判断は時代に合っていたと思う。今後は、急な成長ではなく、年数%程度の堅調な成長を遂げていきたい」と語っている。
(編集長・植田浩司)