紅麹原料を使ったサプリメントが原因と疑われる健康被害が広がった問題で、厚生労働省と国立医薬品食品衛生研究所は、小林製薬の被害報告が集中している2023年6月から同年8月に製造された紅麹原料のロットの提供を受けて、原因物質の特定を進めている。5月28日には途中経過として「工場内の青カビが、紅麹の培養段階で混入して『プベルル酸』などの化合物がつくられたと推定される」と公表した。プベルル酸を投与する動物実験では、腎臓の組織への毒性が確認されたということで、引き続き原因物質の特定を進めることにしている。紅麹問題の解決を期待したい。
遡ること4月下旬に、日本フードサービス協会と食の安全・安心財団が「紅麹食品問題などに関する意見交換会」を共催したので、私も出席した。食の安全・安心、醸造学、医師などの研究者・専門家から有益な話を聞くことができた。日本食品添加物協会 専務理事の脊黒勝也氏は「紅麹原料とは食品・食品原料である一方、(同協会が扱う)ベニコウジ色素は着色料(食品添加物)であり、全く別の異なるものである。そのため、日本食品添加物協会では、ベニコウジ色素の成分は紅麹とは異なるとの声明文を3月29日に発している」と述べ、ベニコウジ色素は、紅麹問題の対象にはならないことを説明した。
また、東京農業大学 応用生物科学部 醸造科学科 教授の前橋健二氏は「麹と紅麹はまったくの別物。麹が受ける風評被害を懸念している。酒、味噌、醤油と結び付ける事案ではない」と麹と紅麹はまったくの別物であり、麹は安全である点を強調した。
内科医で東中野セント・アンジェラクリニック院長の植地泰之氏は「サプリメントや健康食品は、健康な人が健康を維持するために使用するものなので、効果はもちろんのこと、最高水準の高度な安全性が必要。安全性をないがしろにしてコレステロールを減らすなどの効果を求め(すぎ)ることは本末転倒。安全性を担保するためには、最高水準の製品品質管理と、万が一事故が起きた際に被害を最小限に食い止めるために迅速に対応できるシステムが必要。この努力は必ず企業価値を高め、長期的な利益につながる」と、医薬品ではないサプリメントに健康を害する副作用はあってはならず、万が一事故が起きた際のために企業には迅速に対応できるシステム構築が必要であることを説いた。
質疑応答では、外食産業のトリドールから「お客様と取引企業の双方から紅麹について問い合わせが来る。わからないことが多い中で、企業は情報発信の仕方として、どうあるべきなのか。何に気を付けるべきなのか」との質問があった。講演者たちからは「紅麹問題が明らかになった際には、SNSと伝統的なマスコミで報道量に大きな差があった。SNSは(大量な情報とともに)大騒ぎだったが、テレビ・新聞などの伝統的なマスコミは情報量が少なかった。これは小林製薬側からの情報発信が少なかったためかもしれない。一方SNSでは、風評を含めて多くの情報が拡散された。そのため、企業は危機管理の観点から、SNS向けと、新聞・テレビ向けに分けて情報発信することも考えるべきではないか。わかっている情報を小出しにしてでも、先行して開示していく姿勢の方が消費者の安心につながり良い」という回答だった。消費生活コンサルタントの森田満樹氏は「小林製薬は、1月に健康被害を把握していたが、因果関係が明らかでないことから自主回収発表まで2カ月以上かかった。情報発信の遅さで同社の危機管理体制、ガバナンス(企業統治)が問われている。(危機の際に)企業は、わかっていることだけでも積極的な情報開示が必要だ」と主張した。
会議の結論としては、「紅麹は、麹およびベニコウジ色素とは別の物質であり、麹とベニコウジ色素は問題の対象外。紅麹問題を起こした企業は、製造工程の危機管理に加えて、緊急時の情報発信の迅速性が必要で、これを平時から整えることが企業価値へつながる。企業の情報発信の仕方として、風評被害を防ぐためにも、SNS向けと、伝統的なメディア(テレビ、新聞、雑誌)向けに分けて広報する時代になっていることを認識するべき」という内容であったと私は解釈している。
トリドール傘下の丸亀製麺は、新商品発表会および試食会をよく開く。頻繁に開かれるので、密な情報が得られる。そこには、伝統的なメディアと、SNSのインフルエンサー風の人が集まり、この広報PR姿勢は時代に適しているのだと思う。敬意を表したい。6月11日発売の「鬼おろしぶっかけうどん」の発表会も、夏向けの冷たく締めた麺の情報発信で、社会での紅麹問題を忘れさせてくれる、怖いくらいにおいしい話と怪談を交えて没入体験させてくれた。社会での紅麹問題が早く原因究明され、食の産業全体に安心して楽しめる環境が整ってほしいものだ。