電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第581回

世界の半導体補助金バトルは史上最大の60兆円超えとなっている!


中国はダントツの21兆円、次いで米国、韓国、EU、ニッポンが積極姿勢

2024/5/31

 世界の半導体競争は、ただひたすらに過熱するばかりなのである。すでに言われるように半導体産業はもはや先端ハイテク技術の一角というものではなく、国家安全保障、サプライチェーン、軍事防衛さらには政治経済の引っ張り役というとんでもない存在にのし上がってしまったのだ。

 各国の半導体補助金も加速する一方だ。半導体チップ融資額はトータルで62兆円を超えてきており、ドル換算でいえば実に800億ドルというサプライズの金額が半導体産業界に使われているのだ。

 半導体チップ融資額のランキングを見れば、中国がダントツで21兆3000億円、米国は11兆2500億円、韓国が8兆2500億円、EUが6兆9450億円(このうちドイツが3兆円強)となっている。中国が凄まじい金額になっているのは、やはり半導体の国産化率を徹底的に引き上げて、半導体デバイスにしても、半導体装置にしても、半導体材料にしてもできる限り国産化によって諸外国に依存しないという強い方針があるためだ。実際のところ、2027年までの300mmウエハーによる半導体新工場は中国が13件と飛びぬけて多く、次いで米国が8件、日本が6件、インドが4件、欧州が4件となっている。

 そしてまた、米国は中国を激しく追い上げている。これには訳があり、米国企業の半導体におけるシェアは50%を超えて圧倒的な存在感を示している。ところがどっこいである。米国企業の半導体生産は米国本土で実行しているものは、たったの10%しかない。残る90%は台湾のTSMC、UMCなどのアジアのファンドリー企業に徹底依存しているのである。これは、安全保障上、多くの問題がある。中国がアジア全体を牛耳ることが仮にあるとしたら、米国の最先端半導体生産はまさに悲惨なことになる。アジアに依存するわけにはいかないとの思いから、様々な政策に乗り出した。

TSMCはアリゾナに計3棟の新工場建設を計画
TSMCはアリゾナに計3棟の新工場建設を計画
 米国はまず、台湾TSMCに呼び掛けてアリゾナ新工場誘致に動いた。第1工場および第2工場の投資額は5.5兆円。第3工場も内定しており、これが4兆円。実に9.5兆円を投入するTSMCの米国アリゾナ新工場が立ち上がるのである。

 そしてまた、韓国のサムスンにも声をかけ、テキサスに1.5兆~2兆円の新工場誘致も実現させている。米国企業にも積極的な声かけをしている。インテルは3兆円、テキサスインスツルメンツは3兆円、マイクロンは4兆円の設備投資を米国本土に計画しており、兎にも角にも米国に最先端工場を集中させるという戦略を推進している。

 さらに、バイデン政権は最先端の半導体装置、部品、材料を中国に輸出させないということをNATO各国に呼び掛けている。半導体用露光装置大手のASMLにも「主力商品のEUV露光装置を中国に渡すな」と要請した。

 ちなみにASMLの高NA(開口率=0.55)対応EUV露光装置は、なんと1台590億円という超高額であり、これを買うことは半導体メーカーにとっては実に重い負担なのである。

 さて我が国ニッポンであるが、半導体チップ融資額は現段階では3兆7950億円であり、ランク的には第5位にとどまっている。次いで台湾は2兆4000億円、インドは1兆5000億円、イギリスは1950億円となっている。

 自民党の半導体戦略推進議員連盟はラピダスの支援継続、半導体の先端後工程分野などの拠点整備などを中心にさらなる異次元の支援継続を求める決議を採択した。金額的にはこの内容は公表されていないが、筆者の調べによればトータル10兆円は投入すると思われる。そうでなければ、ニッポン半導体復活などは、まったく夢のまた夢ということになってしまうだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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