宿泊業界は新型コロナウイルスの5類移行に伴い回復目覚ましい一方、運営コストの上昇に苦しめられている。「リッチモンドホテル」を全国で43施設展開するアールエヌティーホテルズ(株)(東京都世田谷区)は従前と比べ、利益をより重視した運営に移行するようになったという。また、今後は出店を再開させる計画だ。同社代表取締役社長の本山浩平氏に聞いた。
―― 足元の状況から伺います。
本山 稼働率はコロナ禍と比べて回復しているが、19年度の水準には戻っていない。ただ、東京・大阪・福岡などインバウンドの利用が多い施設では稼働率が高くなっている。DOR(1室あたりの滞在人数)はコロナ前を上回っており、ビジネス需要(1室1人利用)の落ち込みをレジャー需要(同2人以上利用)が補っていることが推測される。
これまでは販売価格を下げてでも売ることを重視してきたが、その考えは変わった。1室を動かすコストが高止まりしており、価格に転嫁しなければ立ち行かなくなる。実際にADRやRevPARは19年度を上回っている。
―― 利益面はどうですか。
本山 ホテル業界全体として、ADRはコロナ前と比べて大きく上がったが、利益率はコロナ前より厳しく、RevPARの伸びでもカバーできてない状況だ。コロナ禍では投資を行えなかったところも多く、その後れを取り戻すために償却負担や投資コストが増えていることも理由としてあるだろう。当社では今、1室あたりの利益を最も重視しており、従前の稼働率や販売価格の重視から変わってきた。
―― 22年12月にはリッチモンドホテルプレミア東京押上(現リッチモンドホテルプレミア東京スコーレ)をリニューアルしました。
「リッチモンドホテルプレミア東京スコーレ」の
Spaツインベッドルーム
本山 シェアオフィスの機能性とラウンジの居心地のよさを併せ持つSHARE LOUNGEやサウナ、ゲーミングルームなど、「このホテルに来たい」と思っていただける仕掛けを考え付く限り詰め込んだ体験型ホテルへとリニューアルした。特にサウナが好評で、主に国内レジャーの需要を捉えている。
もともと効果が認められたコンテンツはほかの既存店に順次インストールしていく構想があった。今期(24年12月期)は4施設の改装が決まっているが、うち地方の観光地にある1施設にはサウナを導入する予定だ。サウナについては今後も東京のみならず、観光地などの立地で検証を行い、勝ちパターンを確立していく。
―― サウナ以外のコンテンツについては。
本山 口コミ評価が非常に高く、一定の価値は認めていただけている。ただ、「サウナがある部屋」に比べると誰もがイメージできるような「分かりやすさ」に欠ける面がある。ご利用いただく前にその価値を十分に認識していただけるよう、今はSNSを通じた販促に力を入れている。同じく体験型の要素が強いリッチモンドホテルプレミア京都四条でも同様の施策を行っている。
―― これを機に直販を増やしていくのですか。
本山 将来的には直販での販売数を増やしていきたいが、お客様には何らかのメリットがなければ直販を利用しないだろう。ロイヤルグループでは今年度よりCRMの構築を進めており、顧客情報を一元化することでグループ店舗を利用するごとにポイントが貯まる仕組みを作る。ホテル事業での採用は来年度になるが、このシステムも活用することで直販の魅力を高めたい。
―― 今後の新規出店の計画は。
本山 コロナ後に開発が始まった新規施設はまだないが、23年度から新規出店に向けて再び動き出した。今は出店意思があることを各所にお伝えし、得た情報を1つずつ精査している状況だ。建築コストの上昇などもあり、今後は「この場所ならホテルができる」という場所ありきの発想ではなく、「この立地で何ができるか」という考え方にシフトしていく必要に迫られている。
―― 出店立地に対する考えは。
本山 広島・神戸・北陸地方など、まだ当社ホテルのない主要立地への出店は十分に見込める。それ以外では都内のほか、地方の第2都市へ出店できる可能性があると考えている。その中でもレジャー需要が一定程度見込める立地であれば、建築コスト上昇に耐えうる販売価格を設定できると思う。
―― 京成電鉄との提携については。
本山 ホテル開発のノウハウを有する京成電鉄と運営を得意とする当社のニーズがマッチしたことから提携が始まった。我々にない開発のノウハウを補っていただいているのは心強い。今後も両社提携のホテルを増やしたいという考えはあるので、引き続き開発を進めていく。
―― 店舗を拡大するには人手不足がネックにはなりませんか。
本山 人手不足感があるが、計算してみると総労働時間はコロナ前と変わっていない。現在、接客以外の業務プロセスを効率化できるようなシステムを外部のベンダーとともに構築している。ホテル業界への主な就業希望理由はお客様と接したいから。非対人業務を減らすことで、離職率低下や職場としての魅力向上にも期待したい。
(聞き手・編集長 高橋直也/安田遥香記者)
商業施設新聞2543号(2024年4月23日)(9面)
ズームアップ!注目企業インタビュー No.59