2023年6月、(株)ルミネの新社長に表輝幸氏が就任した。表氏はJR東日本事業創造本部で東京駅グランスタの開発などを牽引してきた人物。11年にルミネの常務、専務取締役を歴任したこともあり、ルミネを知り尽くす。表氏に聞いた。
―― 23年度の振り返りから。
表 私が着任した23年6月末ごろは、世の中はまだ閉塞感があり、ルミネ自体も元気が足りないと感じていた。ルミネはJR東日本グループの先端を行く企業。ルミネが元気にならないとグループも元気にならないと社員に伝えた。
十数年前、ルミネに何を期待しているかをお客様に聞いたところ、最も多かったのが「挑戦心」。ルミネは時代の半歩先、一歩先を行き、色々な提案をする。その姿勢に元気や勇気をもらえるという意見だった。そのためにはルミネ自身が元気になり、時代を創っていかなければいけない。それがお客様を元気にし、ひいては日本を元気にする。それを社員やルミネの3万人のショップスタッフにも徹底した。すると夏過ぎくらいから色々な新しいことに挑戦する機運が生まれてきた。
ルミネはショップスタッフの力が最も価値を生むと考え、研修などに力を入れてきた。今もう一度力を入れるべく、海外視察研修を4年ぶりに再開を決定した。同様に社員の海外研修も再開し、23年11月、ポートランドなど米国西海岸を視察した。それまでは新入社員が対象だったが、コロナでやむを得ず中止。まだ海外研修に行っていない4年目の社員を連れて行った。4年目になると自分で何かできる世代で、研修は次に何をやるかという際に刺激になる。新しい取り組みも出始めている。
昨年10月、ルミネポジティブ制度「ルミポス」を始めた。社員同士、行動や姿勢を褒めたり称えたり評価し合うもので、より多くの「いいね」のポイントを集めると社長と豪華ランチに行けたりする気軽な社内評価制度で、楽しみながらやる気を引き出している。
―― その効果は。
表 秋以降、売り上げが伸びてきた。それまでの過去最高業績はコロナ前の18年度。そこを指標にしていたが結果的に、23年度累計で18年度を超え、24年2月単年では1割増となった。
ルミネ新宿とニュウマン新宿に相当数の新店を導入したことも奏功した。既存の店舗も新しいお客様を取り込むために、色々な策を打ってくる。相乗効果を生んだ結果、23年度売り上げは過去最高となる見込みだ。
―― インバウンドは。
表 18年度比約1.5倍増、前年比で約3倍増だ。円安もあり高価格帯商品に人気がある。食も人気で、フルーツやスイーツは行列ができる。
日本には価値のあるものがたくさんあるが、それを活かしきれていない。日本の良さを再認識しその価値をもう一度見直すことで、インバウンド需要も喚起できるし、日本人にも訴求できる。それにより事業後継者が生まれ、持続的に成長していく。日本が成長していける原動力になる。
―― 4月17日開業のEATo LUMINE(イイトルミネ)の背景や狙いは。
表 事業フィールド拡充の一環で食を提案する。JR新宿駅地下1階改札内の約950m²に多彩な食関連店舗28店が出店する。駅ナカは便利なものを気軽に買えるが、そこはルミネらしい洗練さを加え、ルミネが手がける駅ナカとして新しいマーケットを創造したい。また、ルミネは基本的に改札外にあるので、イイトルミネをきっかけに駅外にあるルミネにも来て欲しい。
―― TAKANAWA GATEWAY CITYに参画します。
表 これは100年先を見据えた壮大な実験場がコンセプト。高輪は150年前に築堤を日本と欧米の技術を融合してつくり、新橋~横浜間に鉄道が開通した。そのイノベーションがあったから、私たちは今の社会を享受できている。100年、150年先の未来に向けた挑戦をルミネとして展開したい。
―― 新しいルミネの姿が見えてきますね。
表 TAKANAWA GATEWAY CITYは、今まではできなかったこともできる。例えば、様々な異業種との協業や産官学連携など、その効果を掛け算で波及させたい。まちびらきは25年3月だが、オープンはゴールではなく、アップデートし続ける。
―― 未来を見据えています。意図するものは。
表 100年先の未来を希望あふれる社会にするために、今何をやるべきか。この一環で高輪ゲートウェイグローバルアカデミーとして、中高生からの提案を募集し、ルミネ賞を設けた。500人以上から応募があり、最終的に39人が選ばれ、その内容を発表した。大変素晴らしい提案だった。彼らの提案を本気で応援したいと実感した。
24年度に新たにスタートする中長期ビジョンは「グローバル&サステナブル」がテーマ。100年先の未来を見据えた上で、地球課題・社会課題をビジネスとして楽しく解決していくことが重要。TAKANAWA GATEWAY CITYで新たな挑戦の機会を得たので、新しい提案をしたい。それにより、世界にも貢献できるし、世界のマーケットの中でもフィールドを広げていける。グローバルルミネとしても展開につなげられるだろう。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2542号(2024年4月16日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.431