商業施設新聞
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第421回

JR西日本SC開発(株) 代表取締役社長 橋本修男氏


直営2施設の売上高回復
SC開発では地域の需要を重視

2024/3/5

JR西日本SC開発(株)代表取締役社長 橋本修男氏
 JR西日本SC開発(株)は、「LUCUA osaka」(以下ルクア大阪)と「天王寺ミオ」を運営するとともに、JR西日本グループのショッピングセンターカンパニーも統括している。ルクア大阪と天王寺ミオはコロナ禍からの回復に加えて、インバウンド増加やリニューアル効果などで過去最高の売上高に迫っている。JR西日本グループのSCの今後の方針などについて、同社代表取締役社長の橋本修男氏に話を聞いた。

―― ルクア大阪と天王寺ミオの現況から。
 橋本 2023年度は、新型コロナの5類移行に伴って人流が戻り、国内外からの旅行者が増えたことで、売り上げが復調した。23年4~9月(23年度上期)はコロナ禍前の19年度上期比でルクア大阪が95%、天王寺ミオが99%まで回復している。客足については、天王寺ミオが足元商圏に強い施設なので、広域商圏型のルクア大阪よりも戻りが早い。
 23年秋以降はインバウンド需要が好調で、売り上げを上積みした。12月に至っては、クリスマスなどが消費を後押しし、ルクア大阪と天王寺ミオともに過去最高の月商を記録した。年間の売上高はルクア大阪が850億円前後、天王寺ミオが390億円を見込んでいる。

―― LUCUA osakaでは23年、新たな大型店や食物販ゾーンが登場しましたね。
 橋本 23年9月、ルクア大阪の西館「ルクアイーレ」3階に「@cosme」の旗艦店「@cosme OSAKA」がオープンした。3階は大阪駅の改札へとつながる玄関口であり、人が集まってもらえるような非常に明るい店舗を導入したかった。期待どおりに推移している。
 ルクアイーレ2階においては23年11月、「スイーツゾーン」をオープンした。行列ができる店舗もあり、想定よりも好調に推移している。2階に関しては、将来的にうめきたエリアとの接続デッキができる。食物販のフロアとして、今後周辺に増えるオフィスの社用の手土産などビジネスニーズを取り込みたい。

―― ルクア大阪の今後の課題は。
 橋本 商業施設の間でMDの同質化が進んできているため、他とは違うどのような体験ができるのか、独自性を打ち出すことが重要だと考えている。具体的には、大阪府内や梅田エリアで初出店や、ルクア大阪にしかない買い物体験を提供するテナントをリーシングしていきたい。コスメのサンプルが無料で手に入る自販機や、この店舗で売れている商品をランキング形式で紹介している棚などがある@cosme OSAKAなどはひとつの例だ。客層についても、若い人が行くSCのイメージが強くなっている。
 しかし、ルクアイーレ自体はもともと百貨店で、館内ではブランド品の展開も充実している。今後はMDの見直しも検討し、30代後半から40代までの子育て世代も取り込んでいきたい。

―― 天王寺ミオでは、本館6階が様変わりしましたね。
 橋本 館の価値を上げて来館と滞在時間を伸ばし、買い上げ単価を上げるため、23年に猫カフェや「カービィカフェ PETIT」などエンタメ要素のあるテナントを導入した。こうした「小さなオケージョン」を創ることで自分たちでも人の流れを生んでいきたい。さらに、フロア中央部にあった共用部を飲食できるスペースへとリニューアルし、滞在できるようにしている。

―― プラザ館(天王寺ミオ)の老朽化が進んでいます。
 橋本 竣工から60年以上経過しており、いずれは建て替えが必要だ。しかし将来的になにわ筋線が開通すると、大阪府の南部から大阪市の梅田エリアへのアクセスが良くなり、従来よりもわざわざ天王寺駅で買い物をする意義が問われるようになる。そう考えると、プラザ館の建て替えは天王寺あべのエリア全体の街づくりなどを検討したうえで、取り組まないといけない。

―― 貴社はJR西日本グループのSCを統括する役割も担っています。
 橋本 19年に天王寺ミオを運営する天王寺SC開発(株)と合併した際に、JR西日本グループ本体からSCの企画機能を当社に移管した。現在は、当社がJR西日本グループのSC運営会社10社の株を保有し、子会社化している。決済システムの統一や、共通ポイントの導入などのチェーンオペレーションの管理や中長期的な戦略構築を当社が担い、日々の経営は各エリア会社が責任持って担う体制としている。

―― 今後の方針について。
 橋本 コロナ禍を経験し、地域に根差した施設は売上高や来客数があまり縮小しないことがわかった。地方の拠点駅のSCでも状況によっては、アパレルだけでなく、スーパーマーケットや、鉄道と隣接していることで相乗効果が期待できる学習塾やクリニックなどのサービス業態を導入し、地域での存在感を示していきたい。拠点駅では、神戸市で三ノ宮駅ビルの再開発が進んでいる。当社が運営を担えるように尽力していきたい。
 また、既存のSCではコロナ後も入館客数が戻り切っておらず、好調なインバウンド頼みにならないよう顧客基盤を固めていくことは急務である。23年4月に始まったJR西日本グループ共通会員ポイント「WESTER」を活用してSC会員を拡大し、集まったデータを分析して顧客の解像度を上げるCRMにより、営業施策の打率を上げていきたい。

(聞き手・北田啓貴記者)
商業施設新聞2535号(2024年2月27日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.429

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