商業施設新聞
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No.943

移住外国人をターゲットにした店


山田高裕

2024/2/13

 インバウンドの本格的な復活に伴い、日本では現在インバウンドに対応した店舗などが再び増えつつある。またホテルについても新たな計画が動きだしている。一方で、『インバウンド以外の外国人』をターゲットとした店舗や事業も出てきている。

 2023年8月、銀座に「単向街書店」が開業した。この書店は元々は中国本土にあった独立系の書店で、中国本土では北京などで8店を展開、文化的に存在感を持っているようだ。この前銀座に足を運ぶ機会があり、その流れで実際の店舗を見てみることにした。

「単向街書店」の外観
「単向街書店」の外観
 店舗は2階建てで、1階は書店、2階はカフェ・ラウンジとなっている。決して広い店舗ではないが、吹き抜けと中央のらせん階段が広々とした空間を作っている。壁面を埋めている本棚には様々なジャンルの本が並んでおり、中国の出版文化の豊かさをうかがわせる。店舗に並ぶ本の7割くらいが中国語、残りが日本語と英語といった塩梅で、中国人をターゲットとした店づくりとなっている。2階では定期的にシンポジウムやイベントが行われているようで、自分が訪れた時もイベントが行われていた。

 この書店のターゲットは確かに中国人だが、想定しているのはインバウンドではなく、中国人の移住者のようだ。そして今、日本国内ではこうした中国人の移住者が増加傾向にあるらしい。移住してくるのは中国の中でも富裕層や教育水準が高い層で、高級タワーマンションなどの物件を買い、子どもをインターナショナルスクールや進学校に通わせているらしく、学習塾でも上位に中国系の子どもが目立つなどの現象が起きているようだ。

 こうした移住の背景には複雑なものがあるらしい。大きいのはコロナ禍における中国本土の統制政策で、自分たちの生活が大幅に制限されるロックダウンを経験したことから、中国で暮らし続けることに懸念を抱いた人が多いようだ。また中国本土や香港で政治的な統制が近年特に強まっていることから、それを嫌ったメディア関係者などが日本を含む海外に移住しているという話も聞く。実際、先に挙げた単向街書店においても、政治的な性格を持つイベントなどが開催されたこともあるようだ。

 いずれにせよこうした層は経済力があり、しかも定住して消費を行うため、人数に比べて国内消費に与える影響というのはかなり大きなものがありそうだ。インバウンドとも、従来の定住外国人とも異なった層に対応した、新しいビジネスの発展が望まれる。
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