日本発のハンバーガーチェーン「モスバーガー」を展開する(株)モスフードサービス(東京都品川区)。海外でも積極展開することが知られる。特に台湾で300店以上展開し、日系飲食店では特に海外の店舗数が多い企業だ。海外でここまで拡大できた理由は何か。同社の取締役常務執行役員で国際本部長の任にある瀧深淳氏に話を聞いた。
―― 海外事業の概要から。
瀧深 1991年に、台湾・台北市に初の海外店舗を出店し、本格的な海外進出をスタートした。23年11月末時点で台湾では305店を展開しており、そのほかシンガポールで43店、香港で48店、タイで29店、中国で6店、オーストラリアで3店、韓国で15店、フィリピンに8店を展開している。店舗数は台湾がダントツで多く、海外店舗の合計は457店となっている。
―― 台湾は相当な店舗数ですね。
瀧深 人口の厚い台北圏に店舗も集中しており、およそ140~150店ほどが台北圏に出店している。進出当初から現地企業をパートナーに迎えており、30年以上ともに事業を進めてきた。最初は日本で販売していたメニューをそのまま提供していたが、これが現地のライフスタイルや味覚に合わなかった。最初は厳しく、我慢の時期もあった。そうした中、現地のパートナーにも相談に乗ってもらいながら、台湾に合わせたオリジナルメニューを開発していき、これが実って徐々に店舗網を拡大することができた。50店程度まで拡大してから一気に軌道に乗った。
台湾で非常に人気なのはライスバーガーで、種類も日本より多い。また、ライスの部分も日本と違い、大麦を混ぜ合わせたものなど、健康志向の強いものも提供しているほか、コーヒーといったサイドメニューにも注力している。
―― 客層や立地、利用シーンに日本と違いはありますか。
瀧深 日本に比べて、幅広い世代が利用している傾向がある。また、しっかりと食事をする際に利用していただくことも多い。日本で提供している価格と比較すると、若干高い値段設定となっているので、Z世代のような若年層はあまり見かけない。
出店立地は日本の「二等地戦略」と大きく違い、あえて一等地に出店するようにしている。これは海外事業全体で言えることだが、出店に際し一番重視しているのは“人流”だ。人通りの多い目立つ立地に出店することで、広告塔的な役割も果たせるほか、一等地に出店して経過を確認する意味もある。それもあって台湾での認知度は相当高いと思う。
―― なぜ台湾単体で300店も展開できたのでしょうか。
瀧深 とにかく台湾の人に受け入れられるメニューを作れたこと。他のハンバーガーやそれ以外の外食も競合であり、その中でいかに差別化するかが重要になる。そうした中でライスバーガーという人気メニューを作れたのは大きい。また、台湾内に製造工場「魔術食品工業」を設けたことも多店舗化につながった。低価格で品質の良いものを卸せるようになったため、結果として集客にも寄与したと見ている。
―― そのほかの国での展開について。
瀧深 台湾の次に店舗数が多いのがシンガポールと香港だ。シンガポールは21年に、観光の名所でもあるマーライオンの目の前に旗艦店を出店した。日本も含めて最も目立つ場所にある立地かもしれない。シンガポールは93年、香港は06年に進出していることからモスバーガーのブランド認知度は高いのではないか。
直近では、20年にフィリピンに初めて店舗を出店した。フィリピンの店舗数も堅調に推移している。
―― 国ごとにメニューにも個性があります。
瀧深 輸出入の関係などで国によって使えない食材もあることから、全世界で同じメニューを提供することが難しく、現地にある食材を使用してメニューを作っている。そのため、国ごとにオリジナリティのあるメニューとなっている。例えばタイでは、豚肉の上にポーチドエッグを載せた「Fujiyama Pork Burger」というのを提供しているが、これが人気商品となっている。台湾でライスバーガーが受け入れられたように、いかにその土地に合ったメニューを作れるかが本当に大事だ。
―― 海外事業の今後の目標などは。
瀧深 具体的な年数は未定であるが、中長期的には海外だけで1000店を目指したい。将来的には、ハンバーガーの本場であるアメリカにも進出したいので、それに向けて事業に邁進していく。また、昨今は新型コロナや地政学的な要因などで、海外で積極的に事業を拡大することが難しかった。そういった事象が落ち着いてきたら、我々もまた海外で出店を進めていく。
海外で店舗を展開するにあたっては、様々な競合他社に負けないよう特色を打ち出していかないといけない。モスバーガーが持つ“日本発”というブランドイメージを保ちつつ、それぞれの国にマッチするようなメニュー開発にも全力を注ぎ、「ハンバーガーチェーンの中で一番美味しい」ブランドを目指していきたい。
(聞き手・編集長 高橋直也/新井谷千恵子記者)
商業施設新聞2531号(2024年1月30日)(4面)