イオンモール(株)(千葉市美浜区)は国内事業と並行して、中国、ASEAN(ベトナム、インドネシア、カンボジア)といった海外事業でのモール開発にも注力しており、2026年2月期(海外事業は25年12月期)を最終期とする中期経営計画において海外50モール体制を目指している。現在の状況や今後の事業展開などについて、同社海外事業推進部長の遠藤史彦氏に聞いた。
―― 足元の状況について。
遠藤 日本と比べて客数の回復が早く、23年上期の客数の対前期比は中国が130%、ASEANはインドネシアが120%、ベトナムが110%以上になるなど、顕著に表れた。一方、カンボジアは少し回復のスピードが遅い。これは新空港の建設計画に伴う道路の整備による影響で、外部的な要因だ。そのあたりを加味すれば、海外事業全般において来館いただいているお客様の数は戻りつつある。
―― 売り上げはどうでしょうか。
遠藤 コロナ禍を経てお客様の購買行動に変化があり、国ごとに想定どおりのところと、そうでないところがある。ベトナムは23年上期で見ると、対米輸出の落ち込みなどで景気が後退し、数字に顕著に表れた。だが下期からは、観光業が経済を牽引し景気も上向き始め、通期ではほぼ想定どおりの着地となるだろう。
中国は大きく分けて4つのエリアでモールを展開しているが、エリアごとに違いがある。比較的好調なのが、今注力している内陸部や沿岸部の一部だ。中国はエリアごと、モールごとに対応を考えなければいけない状況だ。
―― 海外事業のポテンシャルについて。
遠藤 もちろん大きなポテンシャルがある。例えばベトナムは、23年上期におけるGDP成長率は当初予想を下回るものになったが、下期からは観光業に注力し再度上向き、24年も5%以上の高い成長を見込んでいる。これまでは人口増加やインフラ整備などマスな目線でベトナムの成長を見ていたが、消費傾向から見ても生活に求める豊かさのレベルが一段と高くなってきたと実感している。
中国では、23年11月1日に武漢市で「イオンモール武漢江夏」が開業した。オープン日は1日で16万5000人、開業1週間で約60万人のお客様に来館いただくなど、潜在的なニーズや期待値など手応えを感じた。
―― 海外ではベトナムに投資を集中しています。狙いや今後の展開について。
遠藤 ベトナムは平均年齢も若く、人口増加に加え、25年までのインフラ整備計画においてすでに7割近く施工されている。国が定める成長計画とスピード感、計画の実現性などを考えると、ベトナムがASEAN中で最も長期的に高い経済成長力が見込める。また、ベトナムはイオンの商品やサービスの評価が高く、引き合いが多いことも要因の一つだ。
現在、ベトナムでは北部と南部に計6モールを展開しており、24年下期には中部エリア初進出となる「(仮称)イオンモール フエ」がオープン予定だ。ベトナムも立地は郊外型が主流だが、今後はホーチミンやハノイの中心部に出ていくことも当然検討している。その場合、グループ全体で戦略を立てていくのと同時に、これまでとは違う新しいモデルを作る必要があると考えている。
――中期経営計画で海外50モール体制を掲げています。進捗はいかがでしょうか。
遠藤 出店候補地に対して協議を進めている状況で、プロジェクトベースでは順調に進んでいる。国ごとの状況として、ベトナムは年を追うごとに国が成熟し、公平性を保つために制度運用の厳格化や土地の取引などに対して法制度が変わることもあり、当初計画よりも工程が延びるケースも見え始めている。中国では内陸部における開発が比較的順調に推移しており、予定どおりと考えている。
―― カンボジアはモールに加えて物流拠点も開設しました。
遠藤 カンボジア政府は国内に保税機能がないことや、物流が脆弱であるということを課題視しており、小売りと物流は非常に密接に関わり合っていることから、我々の力で何かできないかという視点で、物流拠点を23年夏に開設した。現在、保税ライセンス、通関ライセンス、パイロット事業者としてのライセンスを取得し、23年7月に保税倉庫の開所を迎えた。将来的には、今の計画よりも事業領域の広がりが出せると思っている。
―― 海外へのモール展開で注意している点は。
遠藤 その国、そのエリア、そのモールで求められているものは何か、そこで我々が提供できる価値は何かをもっと考えていかなければならない。日本よりもはるかに速いスピードで変化している海外においては、日本のモデルをそのまま持って行っても通用しない。まだ対応しきれていないものも数多くある。改善すべき点などを含め、常に変革していく。反省点も多いが、その分、伸びしろもあると思う。
―― 既存モールのリニューアルは。
遠藤 リニューアルは、各国のライフスタイルの変化に合わせ、日本よりも早いスピードで取り組んでいく必要がある。日本と同じサイクルでは変化に追いつけない。毎年一定程度の入れ替えを検討するレベルのスピード感を持っていないと魅力を維持することは難しいと考えている。
また、モール内を快適に過ごしてもらえる環境づくりも非常に重要である。特にASEAN各国では、買い物をする場だけでなく時間を過ごす場としてイオンモールが選ばれている。作りっぱなしにせず、常に手を入れ快適な環境を提供するのは、当然のこととしてできていないといけないと考えている。
(聞き手・編集長 高橋直也/副編集長 若山智令)
商業施設新聞2528号(2024年1月9日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり 海外編 No.3