電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第528回

CMOSセンサー市場、23年出荷量は5%減少


中国は国産化に意欲、積極投資が進む

2023/11/17

 調査会社の(株)テクノ・システム・リサーチ(TSR)によれば、2023年のCMOSセンサー出荷数量は前年比5%減の約63億個となるもよう。スマートフォン市場の低迷に伴い、出荷数量は2年連続でマイナス成長となる見通しだ。

 23年のスマホ市場はマクロ景気の後退に伴い、年間ベースで前年比1桁台の半ばの減少が見込まれている。中国・欧州市場のスマホ需要が低迷しているほか、足元では北米での減速感も強まっている。中国スマホメーカーの部品調達に勢いが戻ってきたのは朗報だが、スマホ向け部品需要は過去ピークには達していない状況といえる。

23年の出荷減少はスマホ不振が要因(写真:サムスン電子のISOCELL HP2)
23年の出荷減少はスマホ不振が要因
(写真:サムスン電子のISOCELL HP2)
 CMOSセンサーの主力アプリケーションであるスマホは、これまで「台数ベースでの成長」と「多眼化」の両輪で成長を遂げてきたが、双方ともに頭打ち感が否めず、成長にブレーキがかかった格好だ。

「1インチ」も視野に

 こうしたなかで、CMOSセンサー各社が拠り所としているのが、センサーの大判化だ。センサー素子の光学サイズ(ダイサイズ)を大きくすることで、光の取り込み量を増やし画質の向上につなげることができる。モバイル用ではハイエンド分野を中心に、1.3分の1インチで5000万画素が増加傾向にあり、メーンカメラ向けで採用が進んでいる。

 大判化が進むことで、ASP(平均売価)の上昇が進み、出荷数量はダウンしているものの、金額ベースでの市場規模がキープできている。今後もより大判化が進むと見られており、将来的にはミラーレス並みとなる「1インチ」も視野に入ってくる。一部スマホにすでに入っているものの、デザイン、コストに対するインパクトが小さくない。搭載モデルが増えていくには時間がかかると見られており、一気の普及拡大は現実的ではなさそうだ。

 ただ大判化トレンドも1インチ化をめどに一巡すると見られており、CMOSセンサー業界としては、大判化に代わる今後の成長シナリオを打ち出していく必要性が出てきた。AIやセンシングなど候補はあるものの、まだ確固たるストーリーが確立されていない。

国産化へ中国勢が積極投資

 中国ではCMOSセンサーの投資が拡大傾向にある。先端プロセス投資が規制対象となるなかで、成熟プロセスで設備投資が行えるCMOSセンサーは、パワー半導体と並んで、23年の半導体設備投資を下支えしたアプリケーションとなっている。新興ファンドリーに加え、ファブレス業態からIDMへの転換など複数社が積極的な設備導入を進めている。今後の焦点は中国地場のスマホメーカーへの搭載となりそうだが、OCF(オンチップカラーフィルター)工程の確立など依然課題は残っている。

 23年の半導体設備投資は、中国が市場を大きく牽引している。大手ロジック/ファンドリーやメモリー勢の投資が低迷するなか、中国勢は積極投資を継続。この高水準の一因となっているのがCMOSセンサーだ。中国では現在、大きく4つのグループでCMOSセンサーの国産化に向けた投資が進んでいる。ファブレス大手のギャクラシーコア(格科微電子)では、マスター工程の生産は現在、キャンセミ(粤芯半導体技術)、華虹半導体に委託しているが、BSIおよびOCF工程の内製化に取り組んでいる。

 オムニビジョンテクノロジーズ、北京拠点のスーパーピクス(思比科微電子技術)を傘下に抱えるWill Semiconductor(ウィルセミコン、韋爾半導体)も中国サプライチェーンの確立を目指している。マスター工程はTSMCやSMICが中心であるものの、今後は淮安工場(RongSemi)を主軸とした体制への切り替えを検討している。BSI工程は不透明だが、上海エリアでのOCF立ち上げに向けた準備も進んでいるもよう。

 ファンドリー系ではCXT(楚興技術)の投資に勢いがある。マスター工程を中心に23年初頭から積極的な装置導入を展開。現在はOCF工程の立ち上げもテーマとして浮上しているという。合肥のネックスチップ(合肥晶合集成電路)もファブレス大手のスマートセンス(思特威科技)の受託製造を拡大すべく、CMOSセンサーのラインを構築している。

中国スマホへの搭載が今後の焦点

 今後、中国勢がCMOSセンサー投資を拡大させるなかで、目標となるのが中国地場のスマホメーカーへの採用だ。現状では採用に向けたハードルは決して低くなく、とりわけ技術難易度が高く、かつノウハウ的要素も含まれるOCF工程の確立が今後の命運を左右することになりそうだ。ただ、中国ファーウェイのスマホ分野での動きなどを考慮すると、中国での国産化ニーズに対する期待は予想以上に高い。

 ファーウェイは23年9月に「Mate 60」シリーズの発表を行うなど、スマホ分野における復権に向けた動きが慌ただしくなってきている。23年は年間3500万台程度のスマホを出荷するとみられ、24年は6000万~7000万台がターゲットとされている。

 多くの半導体・電子部品を中国製で調達できる一方で、ボトルネックとなりそうなのがCMOSセンサーだ。現状で相当量のCMOSセンサーの在庫を抱えているとされるが、24年以降に向けては大手3強に頼らない調達体制が必須。CMOSセンサーの設計能力自体はファーウェイが保有しているとみられ、それを製造できるファブが求められている。

 また、CMOSセンサー同様にアプリケーションプロセッサー(AP)も調達が懸念される分野の1つだ。「Mate 60」シリーズに搭載されているAPの一部はSMICの7nmプロセスが採用されているもよう。同プロセスはEUV装置を用いずに、DUV(ArF液浸)のマルチプルパターニングを多用することで、これを実現したとされるが、歩留まりはまだ決して高いレベルではない。24年に向けては歩留まりの改善やキャパシティーの増強なども必要となってくるが、SMIC以外の新興ファンドリーの立ち上がりが必要との認識が業界内では広がっている。


電子デバイス産業新聞 編集長 稲葉 雅巳

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