東急線沿線の商業施設を中心に運営する(株)東急モールズデベロップメント(東京都渋谷区)は、地域と共生した「街づくり」を行っているのが特徴だ。今後は施設運営のみならず、開発段階から携わる「商業企画PM会社」としての成長も目指すという。これらの取り組みなどについて、代表取締役社長の佐々木桃子氏に聞いた。
―― 足元の状況から伺います。
佐々木 新型コロナウイルスの5類移行に伴い、販促やイベントなどが規制なく稼働できるようになった。その結果、「二子玉川ライズ・ショッピングセンター」の売り上げは19年度を超え、「たまプラーザテラス」も9割以上にまで戻っている。「グランベリーパーク」は8月の猛暑の影響を受けたが、上期を通じて前年の売り上げを上回った。スイーツを週替わりで提案する専門店事業である「MY SWEETS」は、コロナ禍では巣ごもり需要の特需が見られたが、現在も19年度を上回る売り上げである。
―― 東急新横浜線開通の影響は。
佐々木 我々の施設の売り上げに直接は影響していないというのが正直なところだ。しかし、東急グループとしては新線や相互直通運転の恩恵を受けている。
―― たまプラーザテラスではリニューアルを実施しました。
佐々木 2月から5月にかけて既存店5店を改装し、新たに5店をオープンした。既存店はリニューアルによって鮮度を保つことに成功し、いずれも前年を超える売り上げを記録している。新店「Kuradashi」も客足を伸ばしており、足を運んでいただける方が多く、その波が施設全体に波及している実感がある。Kuradashiとは共同でフードロス削減をテーマとしたイベントを実施するなど、館全体の施策にもつながっている。
―― 今後のリニューアルの計画は。
佐々木 コロナが明け、リニューアルを含む設備投資を再開する方向で検討を進めている。昨今の消費行動の変化を鑑みると、食物販や飲食店、サービス店の誘致が増えることが想定される。
―― 新たに東急新横浜線の新駅・新綱島駅前の商業施設の開業前準備業務を受託しました。
佐々木 「新綱島スクエア」内の商業施設部分の開業準備業務を受託している。1~3階に飲食店やスーパー、クリニックモールなどが入居する小商圏の施設で、23年冬の開業を予定している。
新綱島スクエアでは開発の段階から当社社員が入り、地権者やオーナーと一緒に構想に参画してきた。
―― 開発段階から携わる「商業企画PM会社」としての成長を掲げています。
佐々木 19年にオープンしたグランベリーパークにも開発から関わっており、そのころから開発時の商業企画から運営までを一貫して行う動きを加速してきた。現在も「渋谷スクランブルスクエア」や「渋谷ヒカリエ」、東急(株)のプロジェクト開発事業部などに、人材を派遣している。規模や立地条件の異なる施設の運営に携わることで知見を広げ、施設の運営・管理から商業企画まで幅広く対応していきたい。
―― 地域共生のイベントを進めているようです。
佐々木 地元の事業者や地域住民と共同で作り上げる「FIND LOCAL」を本格化している。どの施設でも「地域と共創する」という想いは共通しており、実際これまでも街に根差したイベントなどを開催してきた。しかし、各施設単体での取り組みとなるため、施設同士の連携や企業のブランディングに難しさを抱えていた。FIND LOCALという共通のテーマで各施設をつなぐことで、地域活性化とともに企業のブランディングを図りたい。10月27~29日にたまプラーザテラスと「青葉台東急スクエア」で第1弾となる「FIND LOCAL FES 2023」を実施する。
―― FIND LOCALの効果とは。
佐々木 地元のお客様が地域の魅力に触れ、街をもっと好きになり、暮らしの豊かさに貢献できることだ。商業施設の運営だけでなく施設周辺で暮らす皆様と連携した街づくりも行うことが当社らしさである。また、FIND LOCALではテナントを介さずに我々が直接お客様の声を聞いたり、マーケティングを実施したりする予定である。これらのヒアリングや分析を通じて新たなニーズを掘り起こしていきたい。
―― 東横線沿線の施設はいかがでしょう。
佐々木 東横線沿線は、特に「武蔵小杉東急スクエア」で地域に密着した取り組みが盛んである。同施設は中原区役所との人材交流を推進しており、共同でイベントなども開催している。今後はそれぞれの施設が立地する地域の個性を生かし、FIND LOCALを広げていきたい。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介/安田遥香記者)
商業施設新聞2518号(2023年10月24日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.422