日揮(株)事業推進プロジェクト本部の理事・副本部長の金光 健氏による、JPI(日本計画研究所)主催の特別セミナー「日本政府の成長戦略『医療パッケージ輸出』の先駆的事業に位置づけられた、日揮(株)の海外医療事業展開と課題、キーポイントの開示~カンボジア救命救急センター病院プロジェクトの概要~」を紹介する3回目は、金光氏の「海外医療事業の展開について考える」を伝える。
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◆医療の海外進出には高いハードルと事業リスク
金光氏は、「私個人の意見として」と前置きし、「事業展開を考える視点」として、日揮と北原国際病院のカンボジア、北斗病院のロシア、偕行会のインドネシアといった日本の医療法人を中心としたケースや、IHH、トルコのPPPといったグローバル展開の事例など、進出パターンおよび医療機能面での志向性・類型を示しながら、先進事例として、タイを中心とするBMDグループ(29病院、5308床、関連企業42社、2012年の年商1374億円、同純利益246億円)と、三井物産が26.7%出資し、東南アジア~中近東の30カ国で展開するIHHヘルスケアグループ(30病院+関連施設70、4900床、関連企業157社、12年の年商2088億円、同純利益185億円)のグローバル事業を紹介した。その上で、日揮自らもまた、海外進出にあたる事業主体がクリアすべき、競争原理に基づくアジアの病院市場での高いハードル、海外事業リスクを列挙した。
◆カンボジア病院を基地に多彩な事業を模索
カンボジアにおいては、プノンペン市内では十分なインフラの利用が可能であり、外資100%の病院も可能で、かつ自由価格、病院に必要な物品の調達やサービスの購入が可能であると、進出先としての優位性を説明。計画のカンボジア病院(基地)を中心に、日本の医療機器のPRやメンテ・トレーニング、情報システム(新興国でのITニーズに合った病院システムの検討)、アウトソースビジネス(食事サービス、清掃・警備、リネン、物流:医薬品・材料)は可能か、教育(JICAなどの協力による大学や専門教育、日本との遠隔画像・医療技術・サービスの連携)、地域包括システム(地域医療との連携、日本モデル:予防~医療~福祉の連携)、建築デザイン(施工技術・維持管理、省エネ)、社会システムとの連携(医療制度への貢献、保険システム、エネルギー・農業、インフラ、文化・教育)といった領域、関連分野への進出、多角経営化を目指す。さらには、ASEAN諸国など近隣への基地病院の設置と関連サービス展開も視野に入れている。
例えば、医療訴訟(医療事故)に備えた保険会社の選定やITの導入準備、さらに、臨床検査は日本の企業とのタイアップで進める考えで、これを現地で展開できないかといった、実際の取り組みを通じて、ビジネス領域を拡大する考えである。
◆まずは「医経連携」の模索を
「海外医療進出の黎明期」にある現時点でのまとめとして、▽難易度・リスクは高い(ここ数年、病院の海外進出、アウトバウンドの話題は多く、案件は増加中であるが、実際はパートナー、マーケット、カントリーリスク、人材、コストの競合性、資金力、収益性、参入障壁などハードル・リスクが高く、本格参入は限定的)、▽海外での競争は激しい(診療報酬文化から自由競争文化へ、ビジネスに熟達している海外の医療機関との戦いは熾烈)、▽医療は文化(医療は生活習慣、文化そのもの。落下傘は通用しない)、▽連携モデル(医療機関は資金力がなく、企業は医療がない。まずは医経連携を模索)、▽All JapanではなくCore Japan、▽チャレンジPJ(カンボジアのプロジェクトは小さいながら、総合医療機能を有し、運営・経営もすべて自前で行うチャレンジプロジェクト)と解説した。
会場からは、多くの質問が寄せられ、そのなかの「開業後の収支見通しについて」との問いには、「当初は赤字を覚悟している」と慎重な姿勢を示し、それゆえにこのビジネスをじっくりと育てていこうという考えが伝わるが、同時に「カンボジア病院を基地局に、医療や関連サービスをパッケージして、いろいろ試したい」と抱負を語り、「何かあれば、協力を求めたい」と呼びかけて講演を締めくくった。