「アベノミクス成長戦略の第1の柱は、“女性”と“医療”にあるといわれている。安倍晋三首相は、日本経済の成長率を高めるために、海外に比べて遅れてきた女性の活用を加速しなければならない、とのたまっておられる。しかし、良く考えてみれば、要するに3食昼寝付き、セックス付きの日本の女性は恵まれすぎているのだ。大体が専業主婦などという慣習は、世界的に見てもほとんど少なくなっている。首相の本音は、女たちはプラプラと昼間からデパートで買い物、豪華なランチバイキングをやめてもっと働け、といっているように思えてならねえ」
断っておくが、これは筆者の談話ではない。伊勢佐木町の実家の蕎麦屋で板わさを肴に日本酒を飲んでいた時に、隣の赤ら顔の中高年男が言った言葉である。しかしながら筆者も少しくうなずくところがあったのだ。東京駅や日本橋の豪奢なビルの中にある企業を取材した折に、ここらのレストランは何と高いのだとため息をついていた。ようやくにして850円のランチを見つけてホッとしていたら、見たところアラフォーの女性の2人連れがこう言ったのだ。
「こんないい所で1000円以下のランチを食べるのはみっともないわ。せめてあそこの店の4000円のランチバイキングにしましょうね。安いものばかり食べていると、心まで貧しくなってしまうのよ」
これを聞いて筆者は怒髪天をつくばかりとなったが、着ている服は超一流なのに、鬼瓦のような顔の女たちであったから怖くて黙っていたが、実に情けなかった。
それはさておき、13年7月の調査発表によれば、日本人の平均寿命は女性が86.41歳で世界1位となっている。男性は79.94歳で世界5位のポジションであるが、これは東日本大震災による大量の死亡者が出たことによるものだ。
なにゆえに、日本人はこんなに長生きなのか。様々な分析や憶測がある。筆者の知人などは、日本女性が長生きなのは「図々しいからであり、家計の財布を預かって、かなり自由に暮らしているからだ」と分析する向きがあるが、筆者はそうは思わない。長寿を支えるものはなんと言っても、救命救急の医療体制にある。日本列島は面積的には非常に狭く、そこに約1億3000万人の人口が集積している。非常にこまめに公的病院、私立病院が配置されており、3次救命救急は世界のトップを走っている。
すなわち、非常に早く、危なくなった生命を救う体制が抜群なのだ。それに加えて、CTやMRIなどの高額医療機械については、異常だと言ってよいくらいの数がこの国には整備されている。そして、また、数百人に及ぶと思われる天才的なゴッドバンドのドクターがいっぱいいるのだ。加えて、苦しいときにいつも優しく微笑みかける女性の看護士さんは、天使のようなのだ。
筆者も駆け出しの記者のころにはずいぶんと無理をし、徹夜も辞さず仕事をしていたが、ある日ある時、あまりの過労で品川駅構内に倒れこみ失神した。もう少しで線路に落ちそうになるのを周りの人に救われ、近くの救急病院に運ばれた。実のところ、丸2日間は意識がなかった。その間に、不眠不休で看病してくれた女性の看護士さんの話を聞いた。身に染みて、日本の人的医療サービスは最高レベルにあると思ったものだ。
もちろん日本人の長寿に貢献しているのは、脂肪やコレステロールの少ない和食の伝統があることも大きいだろう。ほとんど毎日風呂に入る習慣があり、清潔好きで、また温泉好きであることが、ストレスを解消しているとも言われている。気候も温暖であり、四季折々の豊かな自然に恵まれ、水がとてもきれいでおいしいことなども奏功している。
最近では、台湾や中国、東南アジアなどから、多くの観光客が訪れている。東日本大震災の影響で一時期は少し減ったが、現在では観光客の到来は回復している。ところで、こうしたアジアの観光客が必ずといってよいほど買う土産物がなんであるかご存知であろうか。
それは秋葉原電気街のデジタルカメラではない。女性ならばアクセサリー、着物、洋服、男性ならマンガやアニメ、ゲームなどが多いとお考えの方もいるだろう。
しかして、それはまったく違うのだ。台湾をはじめとするアジアの人たちはまず真っ先に薬局に行き、日本の薬を買うのだ。その品質がどのくらい優れているのかを彼らは知っているのだ。日本の薬を土産に持っていけば、多くの人たちが喜ぶ。こうした事実を日本人はもっと知るべきだろう。
筆者の22冊めの執筆となる本は
このほど全国書店で一斉販売
ところで、筆者は先ごろ22冊目の執筆となる本を仕上げ、上市した。タイトルは『世界が驚くニッポンの医療産業力~世界制覇を狙う驚愕の技術開発最前線』(東洋経済新報社、定価1500円+税)というものだ。これは、アベノミクス成長戦略の目玉である医療産業の全貌を克明にレポートしており、日本のお家芸であるIT&半導体技術と医療産業がクロスオーバーするという視点で書かれている。
医療は世界で520兆円産業という巨大マーケットになっており、ここを制覇していくニッポンの技術力および日系病院の世界展開などを徹底的に取材していった。また、重粒子線、中性子線などの新鋭がん治療装置、iPS細胞再生医療産業の行方、さらには国内大手の医療機器/医薬品メーカーの設備投資計画などについて約1年半にわたる取材をベースに書き上げてみた。3月1日から全国書店にて一斉販売しており、お近くの本屋さんで手にとっていただければ誠に幸いである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。