電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第631回

熊本県の電子デバイス関連産業集積に伴う経済効果は何と約11兆円だ!


TSMC熊本進出契機に64件の立地協定

2025/7/4

熊本はTSMC進出を契機にサプライヤー企業の進出が加速
熊本はTSMC進出を契機にサプライヤー企業の進出が加速
 熊本県のロング取材サーキットに出かけていた。半導体フィーバーは、いまだに続いている。台湾TSMCの第2工場建設は一時的にストップしているものの、ソニーの大型工場建設、東京エレクトロン九州の新開発棟建設、さらには荏原製作所の新工場建設などが相次いでおり、街全体が活気に溢れているのだ。

 今にあっては事実上の半導体生産の世界チャンピオンであるTSMCは、なにゆえに熊本県を選んだのであろう。熊本工場新設の背景には、よく言われることであるが中国と台湾の対立が続いており、生産フットプリントを台湾以外にも広げていくというTSMC自身の事業戦略があるだろう。もちろん、米中半導体戦争という未曾有の状況も出てきた。つまりは、台湾が中国の支配下に入る可能性が強くなってきたわけであり、そうなればリスクヘッジとしてTSMCが新工場建設を諸外国に持っていくことになるのだ。

 以前にも書いたことであるが、TSMCは米国アリゾナにも3棟の新工場建設を進めており、投資額はなんと約9.5兆円。そしてまた、トランプ米大統領の要請により、最初の計画に加えて米国に約15兆円の追加設備投資も内定している。EUにおいては、ドイツのドレスデンで新工場建設も進めている。そして熊本においては、第1工場の建設に続いて、第2工場の計画もアナウンスされたのである。台湾から見れば熊本は約1000kmの距離であり、飛行機でたったの2時間。そして、九州シリコンアイランドの中核をなす街なのである。

 さて、TSMC熊本工場(JASM)の第1工場は、2024年末に立ち上がった。第2工場については、少し着工が遅れているものの年内には実行され、2027年末には稼働開始の予定になっている。第1および第2工場合わせて、約3兆円という巨大投資が熊本に舞い降りてきたのだ。これが経済効果に結びつかないわけがない。新たな雇用が創出され、新たな企業が進出し、地場企業の取引も増加し、もちろん人口も増加していくことになるのだ。

 TSMC進出決定以降に、熊本県と半導体関連企業が締結した立地協定は計64件となっており、投資予定総額は1兆6750億円、雇用予定総数は4370人に及ぶのだ。熊本県の企業誘致は、20年に41件、21年に59件、22年に61件、23年に72件とうなぎ登りであり、まさにウハウハともいうべき情勢になっているのだ。

 TSMCの巨大工場建設以外にも、ソニーが熊本第2工場を立ち上げており、これは敷地面積だけで37万m²を取得しているから現在の熊本工場を上回る規模になるだろう。東京エレクトロン九州も約300億円を投じ、新たな開発棟を立ち上げている。荏原製作所もまた、熊本事業所の新生産棟が完成し6月から稼働を開始した。そのほかにも、三菱電機の1000億円投入の設備投資、東京応化工業の130億円投入の新工場、そしてまた倉敷紡績、カンケンテクノ、日本マーテック、ルネサス、テラプローブ、ジャパンマテリアル、富士フイルム、JCU、ケイ・エム・ケイなどがそれぞれ意欲的に設備投資を断行している。

 九州フィナンシャルグループの見通しによれば、22年から31年までの10年間にわたり、電子デバイス関連産業集積に伴う熊本県内への経済波及効果は約11兆円としており、まさにサプライズ以外の何ものでもない。熊本県は、未来像として現在のセミコンテクノパークを中軸に添えながら、くまもとサイエンスパークを作ろうとしている。これは、商業施設開発、工業団地開発、大学・研究機関の誘致などを伴う超大型の開発計画であり、まことにもって熊本県の半導体フィーバーはまったく止まることがないのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索