電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第74回

熊本県が生んだスーパースター「くまモン」は全世界に発信


~ゆるキャラグランプリ優勝でブレイクし経済効果1000億円~

2014/2/21

 熊本県は九州シリコンアイランドの中核を占める県である。何しろ国内半導体生産の約40%が九州エリアに集中しており、ゆえに誰が付けたか「シリコンアイランド九州」となっている。その九州の中でも熊本県はトップの生産実績を誇っているのだ。

「くまモン」の経済効果は1000億円以上と驚異的だ!!
「くまモン」の経済効果は
1000億円以上と驚異的だ!!
 さて、いまどきの若い女の子や子供たちに熊本県と言えば半導体、と言ったら笑われるだろう。いまや熊本県を全国区の知名度に引き上げたのは、ご存じゆるキャラの「くまモン」である。もともとくまモンは、九州新幹線元年の戦略であった熊本サプライズ運動の単なるオマケ商品であった。ちなみに、くまモンの企画は小山薫堂氏、デザインは水野学氏が担当した。

 ところで、くまモンは当初とデザインが変わっていることをご存じであろうか。くまモン初号機はとても怖くて不人気であった。また、最初のくまモン商品は何と仏壇に使われたのだ。要するに、誰もくまモンが大ブレークするとは考えていなかったのだ。ところが、である。いまやくまモン関連商品の売り上げは2012年段階で293億円に達しており、実際の経済効果は1000億円以上と言われている。

 くまモンがヒットした最大の理由は、あえて熊本を売り込まない戦略を採ったことだ。版権で囲い込む戦略も採らなかった。つまりは使用料タダであり、許可申請をすれば、ほとんどの場合くまモンを使える。くまモンの使用許可申請は月400件にも達しており、県庁内にも熊本ブランド推進課まで作られてしまった。くまモンをアピールするために緊急雇用した公務員はなんと一気に営業部長に昇進し、大活躍する。公務員集団によるイノベーションは、全国ネットで通用するゆるキャラを作った。吉本新喜劇を使っての徹底した露出作戦も効果を上げている。

 いままでのゆるキャラと違う革新性は、何と言ってもくまモン体操に代表される機敏な動きにある。くまモンは50mを全力疾走できるし、自転車にも乗れるのだ。これは凄いぜ、と、くまモン体操を見て呟いていたところ、隣の女の子が「ふなっしーの方が凄い」と言っていた。ふなっしーは、千葉県船橋市が生んだゆるキャラであるが、非公認であり、くまモンとは違う裏街道を行くチャンピオンなのだ。ふなっしーは1mジャンプするだけでなく、動きもコミカルであるが、くまモンと違って、中の人が家具屋のオヤジで一人しかいない。だからあっちこっちに出没できないという弱みがある。ちなみに筆者の個人的なゆるキャラのベストは、グランプリで優勝したくまモンではなく、東京墨田区のゆるキャラ「向嶋言問姐さん」だと思っている。もともと猫である言問姐さんは、あでやかでとても色っぽいのだ。

 それはさておき、くまモン成功の最大要因は、やはり蒲島知事のリーダーシップにあったと言える。思い切って行けという知事の積極性が役人たちを奮い立たせたのだ。くまモンと会えるくまモンスクエアが熊本市内に誕生し、観光客の新スポットとして大人気を呼んでいる。2013年夏にはヨーロッパに遠征し、現地の有名ブランドとコラボした。同年秋には蒲島知事とくまモンはアメリカに遠征し、ボストン、フェンウェイパーク、ニューヨークタイムズなどを歴訪した。どんなに売れても原点を忘れず、熊本の地元の幼稚園・小学校などはいまもこまめに訪問しているのだ。

 半導体のメッカである熊本県が、公務員集団の知恵と工夫を総結集して国内外に情報発信するくまモンというスーパースターを作り上げた。このことの意味は大きい。熊本県副知事の小野泰輔氏は、全国最年少の副知事であるが、くまモンの成功について次のようにコメントする。

 「新たなイノベーションを生むためには、時代の流れを読んだうえで、何事も諦めず、しつこく粘り強く続ける持続力が必要だ。蒲島知事の陣頭指揮により、お米の世界においても熊本県は全国トップの栄誉に輝いた。食味ランキング第1位を取ったこのブランド米の名前は『森のくまさん』という。くまモンが全国トップになることは夢だと思っている人は多かった。グランプリ優勝などとても無理という人が多かった。しかし今あなたが、無理だと思っていることは数年後には実現する。プロの目で見て無理といったことを疑え、と言いたい。そこからイノベーションは生まれる」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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