「多くの人たちが2012年に東京エレクトロンがテルソーラーAG(旧エリコン・ソーラー、本社:スイス)を買収したときにはチョー驚いたのだ。すばらしいという意味ではない。太陽電池メーカーの設備投資がストップしているというのに、225億円もかける買収は何と無謀なことか、という驚きであった」(太陽電池材料関係の大手幹部)
テルソーラーAGが世界3位の太陽電池製造装置メーカーであったとはいえ、あっさり売るということは将来性が厳しいという意味であったのだ。そこに東エレは気づかなかった。何しろ同社の太陽電池関連における売り上げはたったの30億円程度しかなく、まったくの赤字であり、事業を縮小していくのは当然の道だろう。
さて、太陽光発電システムの世界市場はそんなに暗いのか。EPIA(欧州太陽光発電協会)の発表によれば、2011年~2014年ごろまでの4年間は世界市場が30GW前後で低迷するが、2015年以降は再び高い伸びを示すと予想している。2017年には50GWに近づくというのだ。
ところが、この数年間に中国勢の雨あられの設備投資が続いたことにより、太陽電池の設備能力は実需の2倍以上あるといわれている。まだ詳しい統計は出てこないが、2017年に予想される50GWの需要に対し、2011年段階ですでにメーカー各社の生産能力は50GWを超えているという有様だ。それゆえに、投資が盛り上がるわけがない。
IHSによれば太陽電池産業の設備投資は、2011年がピークであり、実に世界全体で1兆3000億円近くが投入された。この先頭に立ったのが中国勢であり、このあおりを受け世界チャンピオンのドイツ・Qセルズはあえなく経営破綻した。これに代わって世界チャンピオンについた中国サンテックも事実上経営破綻したのだ。こうした流れのなかで、中国勢は今や太陽電池の世界シェアの73%を握っているというのだ。しかして彼らもまた軒並み赤字である。
IHSによれば2011年になって一気に3500億円までダウンした太陽電池の設備投資は、2017年まで低迷し、この間3000億円前後の水準をずーっと続けていくことになるという。
ところが、日本という国はいささかへそ曲がりなのか、メガソーラーブームがいまだ続いている。ちょっと前までは日本列島の500カ所にメガソーラーの計画があったが、現状においてはもはや2000件を超えてくるというほどのブームだという。
「全国500件のメガソーラーがフル稼働しても、せいぜいが40万~50万世帯のエネルギーがまかなえるだけ。日本は4400万世帯であるからして全消費エネルギーの1%にしかならない。また買い取り価格は当初の42円から徐々に下げ始めており、2014年度中には30円を切ってくるという線が強い。買い取り価格が引き下がってくれば、メガソーラーの新規建設ブームはやがて一服するだろう」
こう語るのは、環境エネルギー産業情報(産業タイムズ社発行)の甕秀樹編集長である。甕氏によれば、太陽電池一本に走る再生可能エネルギー戦略はよくないという。今後は安定した出力が期待できる地熱発電(プラントは富士電機、三菱重工業、東芝の3社で世界シェア70%以上)、さらにはバイオマス発電などに人気が出てくるとみている。特にバイオマス発電は、地域に雇用をもたらさないと考えられている太陽光とは異なり、木製チップ製造や食品残渣、汚泥回収などで様々な事業者が絡むため雇用のチャンスが拡大する可能性が強いのだ。
こうした太陽電池産業全体を取り巻くムードが悪化するなかで、ひとり敢然として大型投資に取り組む日本メーカーがある。それはソーラーフロンティア(本社:東京都港区)であり、宮城県大衡村の仙台北部第2団地内の敷地7万m²を活用し、130億円を投じ延べ1万5000m²の新工場建設に踏み切る。同社は昭和シェルの開発した画期的な次世代CIGS太陽電池を製造しており、これまでは宮崎県下に3カ所の工場を持っている。今回の宮城新工場の生産能力は150MWで、従業員は100人を見込んでいる。
高効率の多結晶シリコン太陽電池に匹敵する変換効率に挑戦するという同社の心意気を買おうではないか。日本のモノづくりの武器はいつにかかって最高品質にあり、やがては粗悪品を蹴散らし高いシェアを握ってほしいと考えるのは筆者だけだろうか。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。