「老朽化したトンネルの崩落事故が起きています。必要な安全と安心を保障する投資は止めてはならない。トンネルをはじめ各種プラント、橋梁などの事故を未然に防ぐためには、適切な診断方法が重要であり私たちはその分野で貢献できると考えています」
こう語るのは、計測検査(株)(北九州市八幡西区陣原1-8-3、Tel.093-642-8231)の代表取締役、坂本敏弘氏である。この会社の創業者である坂本武氏は日本化薬(株)折尾工場に勤務していたが、石炭ブームが急速に衰えてきたために計測分野に移り、35歳で独立し、計測検査というカンパニーを立ち上げたのだ。2代目の社長である坂本敏弘氏に言わせれば、創業者はまさに仕事漬けの人であり、会社に寝泊まりし、おびただしい出張をこなし、「命より会社が大事だ」とさえ言っていた。
さて、計測検査という会社は日本の大手である三菱化成(現三菱化学)黒崎工場のプラントの保守検査業務からスタートし、地歩を築いていった。小型部品から大型構造物まで、鋼構造物における様々な内部や外面の傷を、あらゆる手法を用いて丹念に我慢強く検査する。同社の場合、技術部においては、破面調査、成分元素分析、金属組織調査、材料強度試験などの仕事をこなしている。計測部においては、応力/振動測定・解析、土木計測管理、橋梁点検業務、騒音測定などの仕事をラインアップしている。
最近になって同社が一気に注目を浴びてきたのは、構造調査部が担当するトンネル点検である。計測は時速50km程度の速度で行うため、道路利用者への負担が大きいトンネルの通行止めや交通規制を必要としない。短時間で効率よく計測(撮影)を行うため大幅なコストダウンが得られるのだ。トンネルの形状を計測するためにはレーザーを飛ばす。撮影はカスタマイズされた35万画素のビデオカメラで撮る。この特殊な道路トンネル計測専用車両「MIMM」(ミーム)は2台備えている。
「この画期的なトンネル点検の技術は近畿地方整備局が行っている産学官による新都市社会技術融合創造セミナー(委員長:大西有三 京都大学副学長)「トンネル健全性評価プロジェクト(H18年度~H20年度)」の成果を具現化した車両で世界初の交通規制のないトンネル点検を実現しました」(坂本社長)
この道路トンネル計測専用車両は1年間で全国各地を走り回っており、実に10万kmをこなす。すでに3年間にわたって計測は実行されている。国内の道路トンネルは8700本とも言われているが、建設後30年~50年を迎えるものが多く存在する。つまりは、老朽化が進んでおり、これらの維持管理は必須事項であり、公共投資削減という風潮の中で効率のいい点検方法が求められている。アベノミクス戦略を掲げる安部政権が誕生したことで、トンネル点検と補修工事のピッチは急速に上がるとみており、同社の活動の場は広がっていくことは間違いない。
当社が開発したこの車は1台で約3億円。走行しながら計測し撮影するというシステムは、計測検査自体が持つ技術、三菱電機の技術、パシフィックコンサルタントの解析技術を積み上げて、できるようになった。自分の夢としては世界一長いドーバー海峡のトンネルを計ってみたい」(坂本社長)
同社の年商は現状で約10億円といったところだが、ここ数年のうちに50億円に拡大することを狙っている。国内マーケットもまだまだ充分に開拓できる余地があるうえに、外国からも引き合いが来ている。海外展開を含めれば、さらに売り上げは膨らむだろう。世界中のあらゆる国のトンネルを計測検査の車が走る日がくれば、それこそアメリカンドリームならぬジャパンドリームになるだろう。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。