「人間というものは、意外でわがままで不可解なものだ。それでも、常に未来を創造してきた人間は偉大であり、最大限尊重しなければならない」
講演会場で、(株)堀場製作所(HORIBA)の経営戦略本部理事である佐竹司氏がこう語り始めると、ほぼ満員に膨れ上がった聴衆は多くが頷いた。これは、9月30日に誕生した日本電子デバイス産業協会(NEDIA)が主催する北九州でのセミナーの一こまである。
NEDIAは、東京での設立総会を終えて、年末まで全国巡回の設立記念セミナー・懇親会を展開しているが、10月24日にはその第1弾を北九州学術研究都市で開催したのだ。そのプログラムは(1)「HORIBAの方向性~半導体、エネルギー分野などへの事業展開」(佐竹氏)、(2)「半導体ベンチャーの展開と医療への取り組み」(ファーストゲート(株)代表取締役社長土肥猛氏)、(3)「半導体は新アプリ創出で40兆円マーケット拡大」((株)産業タイムズ社代表取締役泉谷渉)といったもので、セミナーの後で開催された九州NEDIAキックオフ懇親会にも多くの人が参加され、熱い盛り上がりをみせた。
さて、HORIBAの佐竹氏は、創立60周年を迎えた同社の中長期基本戦略、現在の着目領域などについて、詳しく説明された。周知のようにHORIBAは、自動車、環境プロセス、半導体、医療、科学の5つの領域での分析計測関連市場で闘っている。自動車エンジン排ガス計測システムでは世界シェア80%を持ち、ぶっちぎっている。また、血球計測CRP計測装置においては、実に世界で100%シェアなのだ。半導体工場のマスフローコントローラーでも43%の世界シェアを押さえている。
佐竹氏の話でとりわけ面白かったのは「事業領域をどのように見つけるか」という点であった。HORIBA創業者の堀場雅夫氏は、学生ベンチャーを興し、「おもしろおかしく」をキーワードに事業を拡大し、現社長の堀場厚氏の積極的な拡大戦略も奏功し、07年のピークで売上高1442億円の会社にまで発展してきた。当然のことながら、HORIBAの目の付けどころは実にユニークなのだと言っていいだろう。
「HORIBAの事業領域は世界規模ではあるが、実に小さい市場なのだ。個々の製品マーケットはさらに小さく、場合によってはせいぜい5000万円程度というマーケットもある。それなのに、グローバル展開でなくては生きていけない。わが社が発展していくためにはグローバル化以外に道はなく、現在従業員数は5530人であるが、日本人は44%しかいない。フランス人が1000人、ドイツ人が500人もいる。こうした条件の中で、事業領域をどう見つけるかが常に勝負であった」
確かに分析計測関連という市場は、基本技術は最先端を求めれられるのに、それぞれの分野でアプリが全部違うという、すさまじい条件下にある。しかし一方で、分析計測関連市場は無限大のマーケットなのだ。なぜなら、この世の中に存在するものは、自然界であっても人間が作り出したものであっても、分析し計測しなければならないからだ。中国を脅かすPM2.5、米国で巻き起こってきたシェールガス革命、再生可能新エネルギーの主役となりつつある太陽電池、次世代環境車のEVや燃料電池車など、HORIBAはここにきて注目するアプリケーション領域を広げている。
「テーマは無限にある。しかし、足を使って探す人にしか見えない。つまりは、机に座ってばかりいる人には何にも見えない。また、テーマは常にグローバルに存在しており、国内はその1つにすぎないと考えるべきだ。そしてまた、未来のマーケットは自らが創造するという気概こそが製品のネタ探しにつながるのだ」
HORIBAのマインドは常にオープンであり、フェアであることを重視する。また、現場主義も強調する。「センサー屋だから自分たちのセンサーを磨かなきゃどうにもならねえ」と主張するのだ。社内で常に議論されるのは「市場が求めるときにタイムリーにそのテーマが商品化されているか」ということに尽きるという。講演の最後に、佐竹氏は声を強めて、次のようにコメントした。
「ハイテクだけが有望市場じゃない。技術価値より、ユーザー価値を優先すべきだ。成熟市場は言い訳に過ぎない。そして何よりも世界一を目指すべき、それが無理ならオンリーワンを目指せ」
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。