「一芸を極めて世界に挑戦」を企業理念に、圧力計測100年の歴史を誇る長野計器(株)(東京都大田区)。101期目かつ第1次中期経営計画(2020~22年度)最終年度となった22年度の業績は中計目標を上回り、過去最高となる売上高605億円(前年度比10%増)、営業利益47億円(同33%増)を達成した。第2次中計の始動や海外強化など、積極展開が光る同社の現況、投資戦略、中長期ビジョンなどに関して代表取締役社長の佐藤正継氏に幅広くお聞きした。
―― 23年4~6月期も好業績でした。
佐藤 22年度の半導体不足の影響から受注残を多く抱えており、その解消に向けて全社一丸で必死に対応した結果、売上高は前年同期比19%増の163億円、営業利益は同3倍の17億円を達成することができた。7月以降も国内外ともに車載用途向け圧力センサーは堅調が続いている。特に欧州で車載エアコン需要が活況であり、当社圧力センサーに追い風となっている。通期も売上高は前年度比12%増の678億円、営業利益は同29%増の61億円と増収増益を見込んでいる。
―― 市況感について。
佐藤 半導体のメモリー関係設備などを筆頭に、工作機械や加工機などの産業機器向けなども含めて車載以外の分野では22年の暮れごろから減速感が漂っている。一方で、アナログ半導体のレガシー品など一部の半導体には依然不足感が残っている。メモリーを筆頭に半導体関連の足元は在庫過多だとしても、中長期的には半導体需要は底堅いとみている。不透明要素が多く断言はできないが、24年の夏以降から回復基調に入るとみている。
―― 23年度投資額は前年度に比べ強気な印象です。
佐藤 当社は収益を内部留保ではなく、将来を見据えて設備投資に使うという方向性でいく。ご指摘のとおり、23年度は前年度比で15億円増の約38億円を計画している。ここ1~2年、納期遅れや供給不足で苦しんだ教訓を活かし、主要製品の増産投資を国内外で進める。
―― 国内での投資は。
佐藤 丸子電子機器工場(長野県上田市)で生産する、主力製品である圧力センサーの生産能力を月産約80万個から同120万個へ、クリーンルームや半導体製造装置向けでは、純水・薬液計測用の圧力センサーの生産能力を従来比1.5倍に、特殊ガス用圧力センサーの生産能力を従来比で2倍に増強する。また、上田計測機器工場(長野県上田市)では空圧機器業界向け小形圧力計製造用自動化ラインを新たに1ライン増設し、生産能力を月産100万個へ高めていく。
―― 海外については。
佐藤 北米、中国、欧州現地で圧力センサーの生産体制を整えて拡販していく。すでに北米市場向けではメキシコに新設したケレタロ工場で22年7月から圧力センサーの生産を開始している。中国工場にも同様の製造ラインを導入し、今秋からの販売を目指す。次いで欧州でも地産地消を進めていく。
―― 第2次中計を含め、持続可能な企業へ描くビジョンを。
佐藤 第1の柱は圧力計、第2の柱が圧力センサーとして、第3の柱は年間売上高200億~300億円級の成長事業を創出すべきと考えている。そのため、コアの圧力計測を応用し、最大400℃の超高温下でもマイナス253℃の極低温下でも高精度計測を可能にする光学式圧力・温度センサー「KF10」を開発した。また、当社独自の生産設備でもある微差圧校正用に最適な高精度・高安定が特徴の圧力キャリブレーター「PC54」を新開発して外販に踏み出した。一方、30年度に連結売上高1000億円を達成し、さらなる事業拡大を図るためには、既存事業のみでは限界がある。M&Aも視野に入れていく。また、抜本的な改革を断行していく。
―― 抜本的な改革とは。
佐藤 組織面では役員クラスの若返りを優先して実践中だ。その一環として、将来の役員候補となり得る人材の育成にも取り組んでいく。積極的な女性の登用など、コーポレートガバナンス面で多様性も検討していく。また、新製品開発は組織でなくてもチームで可能、という発想の転換も図る。別の角度では、圧力計で100年の歴史がある当社でも、圧力計で解明できないことがまだまだ存在する。もう一度原点に立ち返り、基礎研究に挑むなど抜本的な改革を始めている。
―― 半導体関連での展望を。
佐藤 当社ビジネスにおける半導体関連では現状、日本やアジア諸国向けが大半を占めている。前述の施策により、今後は欧米など全世界の半導体メーカーとビジネスを構築していきたい。また、多数の製造工程から成る半導体は奥が深く、圧力センサー製品群が活きる領域が多数あるとみている。全世界のあらゆる半導体領域へ当社製品を広げていくのが夢の1つである。
(聞き手・高澤里美記者)
本紙2023年9月14日号12面 掲載