商業施設新聞
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No.430

水族館から学ぶ


松本 顕介

2013/10/22

 式年遷宮で伊勢神宮を参拝したあと、さて次はと数ある周辺の施設で選んだのが鳥羽水族館だった。久しぶりに訪れる水族館に心を躍らせた。小学生時分の「昆虫博士」、中高生時代は「釣り博士」(いずれも自称)だった身としては、水生生物系は釣人目線でも楽しめる。海原をイメージした大型の水槽には、岩場やサンゴを再現し、その陰から根魚がじっと様子をうかがい、その上を回遊魚の群れがせわしなく行き交う。時折、大型魚が目の前をゆっくり通る。

 海だけではなく、日本の川を再現したゾーンではイワナやヤマメなどの渓流に住むもの、中流域に住む魚オイカワ、フナなど生息域別に分類したり、近年注目を集める里山に住むメダカやタガメ、トンボ、そして絶滅危惧種などの魚、そのほかにオオクチバスやブルーギルなど特定外来生物などの生体と解説も興味深かった。

 アザラシやオットセイなどの海獣も人気だ。1階から3階の高さの深いプールに樹脂製と思われる岩場をつくり、日中浴を楽しむ姿を3階の屋上部分から俯瞰できたり、すぐ下の2階部分にいけばガラス越しに横たわるアザラシが見られ、さらにその下のフロアは水中プールとなっており、全面ガラスの前を悠々と泳ぐ彼らの姿が拝める。高台から係員が餌を与えた後にはその巨体で水面めがけて飛び込むシーンも用意されているのだった。この趣向を凝らした絶妙な動線に気付かされた。各ゾーンやパビリオン、そして全体がとても考えられて作られていて、それぞれテーマごとに来場者が楽しめるようになっている。

 ダイバーが大型水槽内にいるのを見た。よく見ると吸盤を使って身体が浮上しないように、水底を丁寧に清掃しているのだった。なるほど常に水槽内を良好な状態にしておくことが大切なのだろう。

水族館の維持、管理は興味深い
水族館の維持、管理は興味深い
 生体の管理には大変な手間がかかるのは想像に難くない。栄養状態はもちろんのこと、食べかすや糞は水質を汚すし、温度に弱い動物は水温管理も重要だ。常に動物、魚たちの健康管理をベストな状態に維持することと、そして常に来館者も楽しめる環境を整えておくことが重要なのだ。恥ずかしながら、幾度となく金魚を死なせたことがある筆者としては頭が上がらない。

 しかしそれにしてもいったい、いくつの水槽、プールがあるのか。ジュゴンなど人気の高い動物だけでなく、なかには釣り人には大人気だろうが、先ほどのオオクチバスなど、こういうところでは人気はないだろう魚もいる。日本の水草を駆逐した外来種として参考的に展示しているホテイアオイなどもある。また一方で、ナイルワニやカミツキガメなど凶暴なものや、毒を持つカエルなど、危険を伴うものもいる。人気、不人気にかかわらず、多少憎たらしくても分け隔てなく管理、維持することは、“館”全体のクオリティにつながる。こうしたスタッフの日々のたゆまぬ努力、積み重ねが子供から大人まであらゆる来館者を楽しませるのだと思うと、その苦労には頭が下がる。

 水族館はエンターテイメント性も楽しみのひとつ。ステージを使ったショーもどこでも人気がある。鳥羽水族館ではセイウチのショーがある。広場にビニールシートを敷いて、セイウチを間近に見たり、触れたりすることができる。そして何より飼育員との掛け合いが笑いを誘う。飼育員のつっこみにセイウチが「ボー」という鳴き声で応えるものだが、その間合いは円熟味を増した漫才コンビのようであった。係員のトークもさすがで、私だったら間違いなくセリフを噛んでいたことだろう。水族館は自分の足りなさを学べる。
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