電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第547回

北陸の雄、石川県下にも新たな電子デバイスの風が吹き始めた


加賀東芝に2000億円投じる新棟建設、金沢村田製作所もシリコンキャパシタ3倍増

2023/9/8

 石川県といえば、加賀前田の百万石という言葉がすぐに思い出される。織田信長亡き後に覇権を握った豊臣秀吉は、前田利家を最も重視していた。徳川政権下に入っても、前田家は加賀に百万石の巨大な領土を持ち、明治維新まで残ったのだ。ちなみに、東京大学の赤門というのは、前田家の所有するものであった。

 しかしながら、石川県下の半導体や電子部品というものについては、ここのところ大きな話題がなかった。実は、石川県下にある半導体工場は、加賀東芝エレクトロニクス、石川サンケンだけなのである。

加賀東芝300mm新棟の完成予想図(右側建物が300mm新棟)
加賀東芝300mm新棟の完成予想図
(右側建物が300mm新棟)
 ところがここに来て、にわかに半導体設備投資の新たな風が吹き始めたのだ。東芝デバイス&ストレージの子会社である加賀東芝エレクトロニクス(石川県能美市)において、パワー半導体向けの300mmウエハーの新棟建設が開始された。投資額は2000億円であり、この分野の設備増強としてはかなりのスケールになる。第1期棟の建屋が立ち上がるのは2024年春、稼働は24年度内を予定する。第1期フル稼働時には、パワー半導体の生産能力を21年度比で2.5倍に拡大するというのである。

 生産するのは、低耐圧のMOSFETをはじめ、IGBTなどのパワー半導体である。300mmウエハーを採用する最先端ラインとなる見込みであり、当然のことながら、どこかの時期でSiCパワーの増強も予定されると見られている。第2期投資は市況を見て判断するが、旺盛な需要が継続しているため、第1期棟の完成後に着手するとみられている。

 さて、ここで問題となるのは、東芝本体を政府系の投資機関が2兆円で買収するという動きなのである。ここには、国内半導体ランキング4位のロームが出資することになっており、とりわけ東芝に3000億円を充当することになるとも言われている。ロームは、SiCパワー半導体で世界トップシェアを獲ると強くアナウンスしており、なんと宮崎県国富町の40万m²の土地と建物を取得することを決めた。宮崎市や福岡県筑後市に続く、3カ所目のSiCパワー半導体の生産拠点を作るのである。同社は2027年度までの7年間で、SiC事業全体で5100億円を投資するとしている。

 こうした動きの中で、石川県の加賀東芝もまた、ロームのSiCパワー半導体を作ることになる可能性はないとはいえないだろう。日本国政府も、パワー半導体の事業再編を水面下で進めるべきだ、との意見が強まっているという情報も入っている。石川県の加賀東芝が、様々な意味で話題を集めることになるかもしれない。

 パワー半導体中堅のサンケン電気もまた、投資計画を上方修正している。2021~23年度の設備投資額として、当初400億円を計画していたが、これを650億~700億円に増額したのだ。具体的には、前工程では独自のMICプロセスの拡充を図り、ポーラーセミコンダクターLLC(PSL)や、各ファンドリーで進めていく。

 今後の焦点は、やはり5月に新設したグループ会社の新潟サンケンであり、ここにパワーモジュールの新ライン整備を進めていく。当然のことながら、山形サンケンや石川サンケンにおいても、新たな設備増強の動きが出てくる可能性は否定できないだろう。とりわけ石川サンケン本社工場は、敷地30万m²を有しており、国内でも有数のパワー半導体モジュールの生産拠点なのである。

 一方、電子部品の大手である村田製作所の動きも出てきた。同社は、世界トップクラスの電子部品専業メーカーであり、主力の積層セラミックコンデンサー(MLCC)を中心に多くのトップシェア製品を持つ。MLCCの世界シェアは40%を占有しており、とりわけ自動車市場では50%を誇っている。その村田製作所がここにきて、シリコンキャパシタという製品の生産能力を現状比で約3倍に引き上げるというのだ。シリコンキャパシタは、電気を一時的に蓄えたり放出するのと、電圧を安定させる部品である。医療向け、さらにはスマホ向けなどの需要が拡大すると予想されている。

 2028年までに金沢村田製作所(石川県白山市)と仙台村田製作所(仙台市泉区)、フィンランド子会社に合計約100億円を投資し、中長期的にはサーバー向けなどへも供給できる増産体制を整えていくのだ。

 日本国内においては、九州シリコンアイランド、東北シリコンロード、さらには国家戦略カンパニーのラピダスを中心とする北海道バレー、さらには広島、岡山などの瀬戸内バレーなどの計画が出ているが、石川県をコアに、富山県、福井県などを交えた北陸バレーも出てくるかもしれない。いよいよ日本列島全体が、電子デバイスおよび装置、材料の一大集積地帯となってくることが、十分に予想されるのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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