「ニッポンのものづくりの後退が言われて久しい。しかして、世界オンリーワンの技術を確立すれば、そこからブレークしてワールドワイドに展開できるのだ。福岡県遠賀町のエリアに、ナノテクビレッジを作って、世界中の技術者が集まってくれば夢のような世界が生まれるだろう」
こう語るのは、ワークスという気鋭のベンチャーカンパニーの代表取締役である三重野計滋氏である。三重野氏は、博多で生まれ育ったが、父は町場の鉄工所を経営していた。同氏は福岡大大濠高校を出て、西南学院大学経済学部に進み、「マクロ経済学」を学んだ。その後、三井ハイテックという会社に入社する。この頃の時代のことを、三重野氏はこう回顧するのだ。
「正直なことを言えば、私が入社した頃の三井ハイテックは、プレハブの工場であり、小さな会社であったので、その社屋を見た時には『もう帰ろうかな』と思ったほどであった。しかして、入ってからはそのただモノではない技術と仕事ぶりに惹かれていった。11年間にわたり勤務するが、新規開発や営業に飛び歩いた。日立の武蔵工場や高崎工場、東芝の川崎工場などを回り、とにかく三井ハイテックの看板商品であるICリードフレームを採用してもらうよう働きかけた。この分野では、同社は世界トップシェアを今も維持しているのは立派なことであると思う」
さて、三重野氏は、三井ハイテックが大きな企業になるにつれ、徐々に面白くなくなってきたという。何か自分だけでできることをやってみたいとの思いで、ワークスというカンパニーを1991年4月に設立するのである。
ワークスの看板商品は、黄金技術によるガラス製マイクロレンズアレイ「MLA」である。従来のマイクロレンズは、ドライエッチング製法によって作られるため、片面MLAしかできない。しかも厚さは10~20mm程度である。また、屈折率は変更できず、1.46のみであり、大量生産できない。ところが、ワークスのMLAは、超硬合金製金型製法を使うために、両面MLAが可能であり、厚さも2~3mmと薄くなる。しかも高屈折率であり、1.8まで対応でき、大量生産が可能なのだ。コストでいえば、従来製品が1個5万円程度であることに対し、ワークスの場合は10分の1の価格である1個5000円程度でできることになる。
このMLAの量産化に成功し、本社工場では精密加工、若松工場では電気加工を行っている。創業31年にして、売り上げは10億円を超えてきた。数年後に50億円以上の売り上げを十分に見込むという。このオンリーワン技術について、三重野氏は自信をもってこう語っている。
「もちろん、世界で初めての技術であり、画期的なものだと自負している。光源の集光部分や拡散するところもピッタリ合わせ込む。しかも、形状の自由度が高い。均一性も抜群であり、品質も保証できる。量産化技術を確立するにあたっては、独自のモールド金型を開発した。そして、石英ガラスだけではなく、多種屈折率ガラスにすべて対応できることも特徴だ」
ここに来ては、半導体分野への展開も考えているという。最先端のEUV露光については、ウエハー、レチクル、反射鏡に加えて、EUV光源が問題となっている。ここにも十分に応用できるとしている。現在中心となっているArF液浸露光は、ウエハーの上に液体、レンズ、マスク、そしてArF光源が置かれるわけであるが、ここにも十分に採用される精度を持っているのだ。こうした半導体製造装置関連に今後展開していきたいと、三重野氏は熱く語るのである。
そしてまた、三重野氏は、途方もないとも言うべき構想を持っている。開発面においては、0.1mmのガラスレンズも開発中なのである。そして現在の遠賀町の本社工場の横にテクニカルセンターを建設することを考えている。さらに、隣接して外国人のためのゲストハウスも設けるという。こうした先の向こうに、ナノテクビレッジという構想が生まれてきたのである。
「福岡県のはずれにある小さなカンパニーでも、世界に展開する夢は描ける。そうした思いを持った人たちが国内外から集まってきて、オンリーワン製品で勝負する企業の集積地になれば、こんなに嬉しいことはない」(三重野氏)
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。