電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第537回

インフィニオンテクノロジーズジャパン(株) 代表取締役社長 川崎郁也氏


日本でのシェア向上に挑む
国内有数の解析ラボで貢献

2023/8/10

インフィニオンテクノロジーズジャパン(株) 代表取締役社長 川崎郁也氏
 パワー半導体、IoTで世界をリードするインフィニオンテクノロジーズ(独ノイビーベルク)。市場調査会社などの各種データによれば、同社が世界トップのポジションにあるのは車載用半導体、パワー半導体、セキュリティーIC、MEMSマイクロフォンなど多岐にわたる。その日本法人であるインフィニオンテクノロジーズジャパン(株)(東京都渋谷区)で、2018年から陣頭指揮を執る代表取締役社長の川崎郁也氏は、日立製作所の半導体事業部、旧ルネサス テクノロジなどを経て、大手半導体メーカー日本法人の代表取締役の経験も有する。川崎社長に市況感、日本での課題や取り組みなど聞いた。

―― 業績が好調ですね。
 川崎 21年度(21年9月期)、22年度ともに前年度比29%増の右肩上がりであり、23年度も22年度の142億ユーロに対し、約162億ユーロと増収を見通している。当社にはオートモーティブ(22年度売上高中約45%)、パワー&センサーシステムズ(同29%)、コネクテッドセキュアシステムズ(同13%)およびグリーンインダストリアルパワー(同13%)の4事業があるが、パワー&センサーシステムの一部を除き、大半の需要が堅調な自動車向け、産業機器向け、再生可能エネルギー(再エネ)関連などである点が奏功している。

―― 市況感は。
 川崎 全体観としては、家電、PC、スマートフォンなど民生関連需要が弱含む一方、電動車関連は比較的堅調であり減速の気配は感じていない。また、グローバルでは各国の政策もあり再エネ需要が極めて強い。このように市場によって需要の強弱が入り混じっている印象だ。当社目線では前述のとおり、市況感は悪くないということになる。

―― 日本について。
 川崎 全社売上高に占める日本の比率は10%程度であり、22年度は約14億ユーロを達成した。各調査会社の統計資料を見ても、世界半導体市場に占める日本の比率は6%程度であり、当社の10%という数字は健闘していると自負している。ただし、さらなる飛躍に向けて課題もある。

―― その課題とは。
 川崎 世界でトップを獲得している当社主力製品群において、日本市場へ目線を変えた途端にシェアが変わることだ。例えば、車載半導体も日本市場では当社は2位、世界では断トツトップのパワー半導体でも日本では4位である。このことは、グローバル市場での競合が日本市場での競合にあらず、つまり日本市場での競合は日系半導体メーカーであることを物語っている。

―― この課題克服に向けた施策は。
 川崎 日本のお客様と厚い信頼を築くこと、そしてインフィニオンブランドをプロモートすることにある。前者では外資系メーカーながら、日本国内に東京(渋谷)、名古屋、仙台に研究開発センターを有し、大阪には顧客サポート用の支店を設置している。なかでも渋谷のラボでは1フロアを埋め尽くすテスターや最先端の解析設備を完備している。日本でも有数の解析・テスト拠点がアクセスの便利な渋谷にあるという利便性は、多くのお客様に驚きを持って評価されている。また、ミリ波レーダーの開発など車載ADAS向けの各種ソリューション提案も渋谷のラボ内で推進している。22年8月の移転を機に強化・拡張して以降、日本のお客様からの信頼関係が高まっている手応えがある。

―― 後者についてもユニークな活動をされています。
 川崎 代表的なのは、21年から毎年開催している日独オクトーバー技術交流会であり、日本の社会課題の解決策などを様々な催し物を通じて議論するイベントとなっている。そのほか、ハッカソンやスタートアップ企業の支援、大学生対象のインターンシップも充実させている。

―― 増強も積極的です。
 川崎 世界19カ所に製造拠点を有しているが、現在増強が進行中なのは、総額約50億ユーロを投じる独ドレスデンのアナログ/ミックスドシグナル、パワー半導体向けの300mmウエハー新工場、SiCやGaNなどワイドギャップ半導体では約20億ユーロを投じるマレーシア・クリムの3棟目となる新工場、フィラッハの一部既存ラインのSiC/GaNへの改造だ。これらにより、25年には10億ユーロ、27年には30億ユーロの売り上げに対応できるSiCの生産能力を構築する計画だ。
 今後、SiCパワー半導体市場は27年には現状比10倍の成長が予測され、当社も30年までにSiCの市場シェアを現状の20%台から30%まで高めていく。

―― 経営にあたり大切にされていること、および今後の日本での展望を。
 川崎 仕事上の心構えとして「相手の立場に立って考える」「問題は早い段階で解決する」「相手の方が専門家である」ということを肝に銘じて経営にあたっている。自身は技術畑での経験が長いが、当社の技術や品質は非常に優れていると感じている。このことを日本のお客様にもっと伝えられるように、コスト、効率ではなく、お客様の特性に応じた拡販手法などを駆使して取り組んでいきたい。また、前述の国内研究開発センター内の解析・テスト設備を、ニーズに合わせて適宜維持ならびに更新しつつ、全社売上高のうち10%堅持を目標に、約650人の従業員、うち半数以上のエンジニアの力を結集して挑んでいく。

(聞き手・高澤里美記者)
本紙2023年8月10日号4面 掲載

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