電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第536回

アルプスアルパイン(株) 代表取締役社長 兼 技術担当 泉英男氏


ハードとソフトでシナジー創出
ニーズ増加で半導体の外販始動

2023/8/4

アルプスアルパイン(株) 代表取締役社長 兼 技術担当 泉英男氏
 旧アルプス電気と旧アルパインの経営統合から2023年で5年目を迎えたアルプスアルパイン(株)(東京都大田区)。経営統合当初から、ハードウエア(HW)とソフトウエア(SW)の両技術で価値創出を目指し、縦方向に要素技術の深耕、横方向にシステム技術広範囲化を意味する「T型」企業を見据えて邁進してきた。自動車も電動化シフトが鮮明になり、SDV(Software-Defined Vehicle)の時代を迎え、まさに同社の目指す方向性とクロスオーバーし始めた。23年度売上高は9350億円を予想。1兆円の大台が射程圏内に入ってきた。
 このHWとSWの融合という社運を賭けたミッションを一手に担い、先頭に立って陣頭指揮を執ってきたのが、6月23日付で同社代表取締役社長に就任した泉英男氏だ。泉新社長にHWとSWの融合で描く未来、今後の方向性などお聞きした。

―― 攻めの役割を託されての新社長ご就任ですね。
 泉 社長就任はまったく予想外であったが、ここからが当社にとってHWとSWの融合を実らせていく大切な局面だと認識している。このタイミングで社長の大役を託された自身の最大ミッションは、ソフトウエアセントリックな時代に事業を変革していくことにあり、全力で実践していく。また、会社経営について重要視すべき様々なファクターがあるが、やはり「人」が基盤である。各社員が将来性、魅力を感じながらエンゲージメントを高めていける経営を実行していきたい。

―― 簡単にご経歴を。
 泉 自身が旧アルプス電気に入社後間もなくして旧アルパインに出向した折、自動車電話のSW、IC開発の技術畑からスタートした。1990~96年にドイツに赴任し、通信系高周波デバイスの営業技術・拡販活動に携わった。欧州がデジタル通信で世界に先行していた時期であり、競争力の源泉がSWの内製化にあることを実感する契機となった。この時を境に、03年のアルプス通信デバイス・テクノロジー上海の開設など、SW開発立ち上げを推進。その意味で、HWとSWを組み合わせたビジネス展開に早い段階から着手したことになる。

―― 「デジタルキャビン」を構想されています。
 泉 この構想は、SDV時代を見据えて当社が邁進しているHWとSWのシナジーそのものだ。今やスマートフォン(スマホ)は、機能をSWでアップデートしながら進化するスタイルが常態化している。自動車でも同様に、SWをアップデートしながら機能進化していく時代が到来する。わかりやすく表現すれば「車のスマホ化」である。SWをアップデートし続ける力、あらゆる車内外情報を検知できるセンシング力が問われる。当社は電子部品メーカーながら、これらの力をすでに持ち得ている。

―― 具体的に描かれている未来は。
 泉 ポートフォリオシフトでデジタルキャビンソリューション事業へ転換していく未来を見据えている。HWでは当社のセンサー技術、通信製品に加え、他社との強力なパートナーシップ、SWでも当社技術と他社との連携でソフトウエアセントリックな製品展開を実現し、キャビン空間の演出、車室内の安全監視、デジタルキーやモビリティーなどリカーリングサービスを形にしていく。

―― パートナーシップについて。
 泉 HW領域では、統合コックピットで日本精機様、シート周辺ではテイ・エス・テック様、キャビンコントローラーではクアルコム様、音響環境制御ではDSP Concepts様、ミリ波IC開発ではアコーニアAB様と資本提携や戦略的協業を締結している。また、SW領域ではクラウドサービスでフリービット様、車載OS/キャビン領域では、中国最大規模の車載ソフト事業会社であるNeusoft Group様、組み込み/セキュリティー領域ではTata Elxsi様と資本提携や業務提携を締結済みである。

―― 一方で、半導体の外販も開始されます。
 泉 そのとおりだ。内製用のみにICを手がけていたが、数年前から販売してほしいという引き合いが増加しており、当社ブランドで外販を始めることに決定した。すでに電流センサー大手へのIC採用や静電IC受注も増えてきた。今後、ニーズをみながらラインアップを増やしていく。従来から社内にIC設計部があり、この部署に外販用の機能を追加し、社内体制も整えた。生産のみファンドリーへ委託するが、それ以外の設計開発から最終検査に至るまで自社で手がけていく。

―― 生産拠点について。
 泉 国内には車載モジュールやアクチュエーターが中心の宮城県の古川第2工場をマザー工場とし、同県の涌谷町に抵抗体など車載系部品を担う工場、同県の角田市にタクトスイッチ、高周波製品、ミリ波レーダーを担う工場、新潟県の長岡に薄膜プロセス工場を有する。海外には車載向けの地産地消に向けては、北米(メキシコ拠点)、中国(大連地区、東莞地区)、欧州(チェコ、ハンガリー)およびインドに拠点を設置している。また、SW開発では古川、仙台、いわきの開発センターを中心に、国内3000人ほどのエンジニアが従事している。23年度設備投資額510億円のうち、車載向けで半分程度を計画している。

―― 今後に向けて。
 泉 車載向けでは前述のとおり、キャビンコントローラーを軸にしたつながる製品に集約するとともに、新たなセンサー技術に磨きをかけて伸ばしていく。また、民生機器向けでは従来お家芸のアクチュエーターやハプティック技術でアミューズ市場向けを第3の柱に見据え、50%超のシェア獲得を目指す。これらに加え、環境関連の新たな製品群も拡充していく。「失敗を恐れるよりも何もしないことを恐れろ」が私の信条。攻めの姿勢で、連結営業利益率10%、売上高1兆円の中長期目標「ITC101」を達成していく。

(聞き手・高澤里美記者)
本紙2023年8月3日号10面 掲載

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