「ついにというか、いよいよにというか、あのロームが巨大投資に動き出したのだ。なんとソーラーフロンティアの宮崎県国富町の40万m²の土地と建物を手に入れてしまった。ローム半導体は一気上昇の機運に入ったのだろう。」
これは、筆者のよく知る名物アナリストがため息をついて天を見上げ放った言葉である。ローム半導体は国内ランキングでいまやルネサス、ソニー、キオクシアに次ぐ第4位に位置しており、国内を代表するセミコン企業として世界にその名を知られてきた存在である。ラピダスが北海道千歳に100万m²の土地を取ったことで評判になったが、筆者の知る限り、40万m²という面積を取る半導体工場はこの十数年間まずもってなかったのである。
パワー半導体の世界市場は10年後には15兆円を超えてくるという予想がある。中でも省エネ性に優れるSiCパワーは20~30倍に伸びてくるという予想もあるのだ。
「ロームのSiC事業は25年度に売上高1100億円以上、シェア30%以上の獲得を目指す。25年以降も手を休めることなく、投資を継続していく。27年度までの累計で最大5100億円をSICデバイスの増強に投じる計画だ。マツダのEV戦略に参画もするし、日立のEV用インバーターにもわが社の製品が採用された。」
こう語るのは今や国内の半導体企業ランキングで第4位に躍進したロームの松本功社長である。松本氏はここ数年のうちに、SiCデバイス市場は8000億円以上に一気に膨れ上がると判断しているという。
パワー半導体のもう1つの重要ファクターは300mmウエハーにある。加賀東芝は300mmウエハー対応のパワー半導体製造棟の起工式を先ごろ行った。同時に太子町の工場内に新たな製造棟を建設し、生産能力を2倍以上に増強する。東芝全体としてパワーの能力は数倍に膨れ上がることになるだろう。
国内のパワー半導体の最大手である三菱電機も動き出した。熊本県泗水地区にSiC8インチウエハーの新工場を建設することを決めたが、ここには1000億円を投入する。またパワー半導体の後工程工場を福岡県に新設し、これにも100億円を充当する。同社の21~25年度のパワーデバイス事業の投資は、2600億円に倍増される。
ファブレス傾向になったルネサスもまた、山梨県甲府工場、群馬県高崎工場の中にパワーの新工場を建設するのであるからして、まさに驚きなのである。この高崎工場というのは、ルネサスが日立であった時代によく出かけたが、今ではほとんどお目にかからないバイポーラ半導体を量産する工場であり、ほとんど休眠状態であった高崎が起き上がるというインパクトは大きいとしか言いようがない。
富士電機はトヨタ向けのパワー半導体を量産するカンパニーとして知られているが、長野県松本工場、津軽工場でSiCの6インチ投資に注力しており、この動きにも大きく注目する必要がある。
願わくば、パワー半導体だけを専門に行うファンドリーの巨大企業が出てくれば、ニッポン半導体復活に大きな正のインフルエンスを与えると思えてならないのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。