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第534回

コニカミノルタ(株) 執行役員 機能材料事業部長 大久保賢一氏


新フィルムをテレビ向けに展開
3倍の長尺化で効率化に貢献

2023/7/21

コニカミノルタ(株) 執行役員 機能材料事業部長 大久保賢一氏
 コニカミノルタ(株)は、偏光板の保護や位相差フィルムとして用いられるTACフィルムサプライヤーとして、トップクラスを堅持している。COPやPMMAなど新素材のフィルムを開発し、シェア拡大を図るべく採用活動を活発化させている。2022年度に現職に就任した、執行役員 機能材料事業部長の大久保賢一氏に、製品展開や事業戦略などを伺った。

―― まずはご略歴から。
 大久保 1998年にコニカに入社し、12年間研究職としてインクジェット(IJ)向け材料の開発に従事した。その後は経営戦略部で企画などを手がけ、18~20年にはIJ、フィルム、レンズなどを統括した材料・コンポーネント事業本部で部門横断の企画や新規事業の立ち上げに携わった。21年に機能材料事業部の副事業部長兼営業統括部長となり、22年に現職に就いた。

―― 22年のディスプレー市場は、未曾有のマイナス成長となりました。足元の状況はいかがでしょうか。
 大久保 22年の市況はリーマンショック時よりも悪く、長引いた印象だ。特に当社のような川上の部材メーカーにおいては、コロナ特需により需要が大きく膨らみ、偏光板、パネル、セットメーカーそれぞれが在庫を抱え込んだことが積み重なって、非常に大きな影響を受けた。
 足元(4~6月期)の状況は、テレビは在庫も消化され、パネル価格も上がってきたことで市場の健全化が進んでおり、引き合いも多くなってきた。しかし、中国の618商戦向けに稼働率が引き上げられたものの、見込みほどセット販売が伸びなかったもようで、これが7~9月期にどう影響するかは注視が必要だ。

―― IT系やモバイルについては。
 大久保 IT系も在庫が解消されつつあることで、4~6月期は思ったよりも悪くなかった、という状況だ。ただし、在庫が減少したことによる一時的な動きであり、23年は基本的に低迷するとみている。また、時期的には24年が買い替えサイクルにあたり、23年はちょうど端境期だ。買い替えサイクルや、OSの変更などで需要が生じるため悲観はしていないが、市場の声を聞くと、本格的な回復は25年以降になりそうだ。
 最も不透明なのが、モバイル分野だ。スマートフォン市場はコロナ特需の揺り戻しというよりも、以前から市場成長が鈍化しており、インフレや世界的な雇用問題といった市況が要因だと見ている。市況は改善しつつあるものの、以前の買い替えサイクル(2年)では回らないのではないかと懸念する声も大きく、本格的な回復は他の分野よりも不透明だ。とはいえ、フォルダブルや、アドバンスドディスプレーと当社が定義づけるXR関連などの新しい表示デバイス分野には期待しているし、動向も注視している。

―― 新製品のSANUQI(サヌキ、COPフィルム)やSAZMA(サツマ、PMMAフィルム)の展開について。
 大久保 サヌキは、VA方式テレビの位相差フィルムとしてメーンに展開していく。提案活動が実って21年には採用が増えていったものの、22年の市況悪化により計画どおりの展開ができなかった。しかし、1~3月期には市況が戻り始め、中国のG10.5工場など向けで採用が伸び、好調に推移している。有機ELテレビ向けも含めて、23年度は再スタートをかけていく。
 サツマも、テレビを中心に営業活動を活発化させる。保護フィルムと、IPS方式の位相差フィルムとして展開していく計画だ。また、詳細は申し上げられないが、サヌキもサツマも当社のフィルムの薄膜化技術を活かし、モバイル向けへの展開も視野にある。

―― TACフィルムの採用状況は。
 大久保 TACは、テレビ向けは位相差のみを手がけており、40μm品が主流となっている。IT系では保護やIPS位相差フィルムとして採用されており、40μm、20μm品を展開している。モバイル向けは20μmのIPS位相差がメーンだ。車載向けでは、80μmの保護フィルムが高評価を得ている。
 車載向けには、今後積極的に営業展開をしていく方針で、車載に強いパネルメーカーへアプローチしていく。また、当社全体でインダストリー領域に注力しており、IJや計測機器を手がける事業部では、車載への展開を強化している。この、他部署でつながった接点を活かし、フィルムも積極的に提案していく。当社のTACは湿度や温度への耐久性や、耐衝撃性が高いことがアドバンテージとなっている。

―― G10.5工場では2500mmの広幅フィルム対応が求められますが、長尺化も実現されましたね。
 大久保 通常のフィルムの長さは4000mほどだが、3倍の1万2000mの長尺フィルムを試作することができた。当社のフィルムの薄膜化技術と、歪みや隙間なくきっちりと巻くことができる巻きの技術、溶液成膜方式による滑りの良いフィルムが実現できることなどの合わせ技で達成した。この長尺フィルムは、お客様の作業工程においてフィルムの切り替え回数を減らし、効率化に貢献するものとして提案活動に注力している。
 まずは、サヌキで広幅(2500mm)かつ長尺品を展開していく計画で、現在サンプル評価中だ。

―― 生産体制は。
 大久保 フィルム成膜としては、神戸サイト(兵庫県)に7本(うち1本がサヌキ専用)、台湾のOEMに1本のラインを持つ。甲府工場(山梨県)には後延伸装置を導入している。この、成膜と延伸工程が分かれていることで、成膜後に広幅が簡便にできる生産体制であることも、強みの1つだ。後延伸装置は従来の半分~3分の1程度の投資で増強が可能で、今後、需要拡大に応じて設備増強を図っていく。


(聞き手・澤登美英子記者)
本紙2023年7月20日号8面 掲載

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