新型コロナの感染症指定が5類になるなど、ポストコロナの時代に入ったことで料飲店などは客足が戻り、コロナ前への業績回復が期待される。こうした状況をどう見ているのか。1937(昭和12)年創業で、酒卸事業大手の榎本酒類(株)の代表取締役社長である榎本一二氏に聞いた。
―― 酒販卸には免許制度があります。
榎本 酒販会社は、免許によって街の酒屋や量販店などにお酒を卸す「卸業者(問屋)」と、飲食店・料飲店にお酒を卸す「業務用小売業者」に分けられる。お酒をメーカーから直接仕入れることができるのは卸業者だけだが、卸業者では基本、飲食店・料飲店に直接お酒を卸すことはできない。当社は両方の免許を持つため、料飲店の顧客に、メーカーの最新情報を提供できる。
最近は業務用の比率が高まり、9割以上に達している。かつて大田区内には卸業者(問屋)は8社ほどあったが事業を畳み、今では大田区内は当社のみ。街の酒屋が減ったことが要因だが、区内でも現在当社は酒屋の顧客が100件ほどある。
―― 店舗のサポートもしているそうですね。
榎本 営業マンは地域の繁盛店の情報を持っており、これをデータベース化し、お客様に提供している。当社は7500社の取引先があり、それぞれの担当者が1人あたりおよそ100軒以上の顧客を抱える。外回りの営業で、街を回りながら新しい飲食店を発見した際に、積極的に訪問し、相談相手になったりしながら顧客化している。
―― 飲食店事業としてFCで「プロント」を運営しています。
榎本 私は1965年に当社に入社したが、それまではサントリーに籍を置いていた。また当社はテストマーケティングで料飲店を新宿、渋谷で2~3店経営していた。新しい商売を立ち上げようとしていたところ、当時様々な小型バーをつくっていたサントリーと共同でプロントを立ち上げた。現在、プロントはフランチャイズビジネスを展開しているが、当社の店舗が“0号店”となった。その店舗を見に来てプロントのFCオーナーになった人は多いと聞く。
―― 感染が収まり、コロナ後となります。どう見ますか。
榎本 コロナ禍では政府の支援が非常に手厚く、その間不良債権は一切なかった。むしろ今のほうが危惧している。借入金の返済や、人手不足、原価高騰など経済状態を圧迫する要因が増加している。月末になると「(支払いを)ちょっと待ってくれ」というのがぽつぽつ出始めている。
また、消費者がお酒を飲まなくなった。特にビールを飲まなくなり、ソフトドリンクやチューハイ系は好調だ。単価は低いが物流費は同じであるため、利益を圧迫する。大手のチェーン居酒屋への客足が鈍い一方で、特徴がある個店を好む傾向が強いことから、チェーン店の回復が鈍い。
―― アフターコロナに向けた貴社の取り組みは。
榎本 繁盛店サポートを徹底的にやる。飲食業は辞める人もいるが、始める人もいる。街を見ていると常に新しい店舗が誕生する。それをきちんとフォローする。重要なのは直接訪れて話をし、有益な情報をデータベース化すること。
また、物流事業は今後力を入れる。東京・台場に日本さけネットという倉庫がある。これは他社と共同出資で立ち上げたが、当社グループが中心となって運営している。今は酒類だが、一般貨物も検討している。物流は2024年問題もあるので、基盤を作っていけば将来性に期待できる。
―― 中長期計画は。
榎本 売上高300億円で3%の営業利益を目指した「3009運動」を展開していた。20年1月期に売上高が270億円に到達し、達成間近と思っていた矢先にコロナで売り上げが激減したため、再挑戦する。
―― 「3009」の達成はいつごろになりそうですか。
榎本 今期は270億円に戻せそうで、この2~3年には達成したい。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2498号(2023年6月6日)(8面)
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