半導体産業と言えば、前工程のことばかりがやたらめたらに話題となるが、ここにきては後工程市場がにわかに注目を浴びてきた。後工程の革新はこれまで立ち遅れ気味であり、もっともっと設備投資をしないとダメだという考え方がデバイスメーカーに多くでてきたからだ。そしてまた半導体を実装するプリント配線板メーカーの投資も活発化しており、特にパッケージ基板についてはイビデン、新光電気、京セラ、メイコーなどでアクティブな投資計画が目立っている。
とりわけ注目を集めつつあるのは、アドバンスドパッケージ市場である。ここ数年は半導体の伸長が続く中でパッケージは先端のものが急成長しており、2022年の世界市場は前年比15%も伸びて、現在6兆円以上となっている。今後数年間にわたって12%成長が継続すると見られており、何と13兆円の巨大市場を築くことになるのだ。
もちろん主役は台湾ASE、米国アムコーなどであり、フリップチップBGAやフリップチップCSP、さらには2層から3層の積層型パッケージが飛躍の時を迎えている。
高性能半導体パッケージ基板については、国内勢が強気の設備投資を実行中だ。イビデンはここ2~3年で3000億円は投資すると言われており、河間新工場は24年度から稼働し始める。大野町には大型用地15万m²を取得しており、ここにも新量産工場を設けるのだ。新光電気もまた千曲に新工場を立ち上げており、連続した投資で、1400億円を投入する。また新井工場においてもメモリー向けの新工場が計画されている。同社はこの数年で2500億円を投入する気迫を見せ始めた。
その他、凸版印刷はGPUおよび通信向けシステムLSIに強く、新潟工場に112億円の追加投資を行っている。FICTは大型FCBGA基板に照準を合わせており、今後3年間で300億円を投資し、長野、および黒姫に設備を入れていく。京セラは綾部と川内中心に有機PKG基板を強化しており、川内には新棟を建設中だ。メイコーもPBGA/FCBGA基板に参入し、石巻で試作量産、天童の2期増強を計画し、売り上げ300億円を狙っていく。
一方、国内プリント配線板メーカー全体の設備投資も飛躍的に引きあがっている。大手12社の集計を見れば、20年度に1882億円であったものが、21年度には2700億円に上昇した。そして22年度に至っては何と4386億円という空前絶後の水準になっている。現在国内プリント配線板メーカーでトップの売上高を誇るのは京セラであり、22年度は3700億円前後に押し上げ、設備投資についても1000億円を投入する。売り上げ2番手はNOKで3600億円くらい、これにイビデン2770億円、メイコー1780億円、新光電気1650億円、日東電工1200億円と続いている。
ただし、DRAMやNANDフラッシュメモリーなどの市況が非常によくない状況であり、メモリー関連のFCCSP基板はすでに調整が始まっている。なにしろ韓国のメモリー大手のサムスン電子は2023年1~3月期で4580億円の赤字を出し、1四半期としては過去最大の赤字幅となってしまった。SKハイニックスも良くない。同時期に3400億円の赤字を出しており、これまた1四半期ベースでいえば、最大赤字を記録した。
市況悪化から、パッケージ基板メーカーの間では投資の見直しに着手するところも出てきそうな気配である。すでに製造装置の納期はタイト感がなくなっている。ただこの秋口から市況は回復すると見られているため、投資を断行するべきか、それとも保留するべきかで各社とも悩みの中にある。シェイクスピアのハムレットではないが、「To be or not to be that is the question」(生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ)という心境になっていることだろう。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。