電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第501回

ラピダスが変える半導体フォトマスク業界


外販マスクショップがEUV対応、先端マスク描画装置を積極導入へ

2023/4/28

 次世代半導体の量産化を目指す国策ファンドリー会社「Rapidus(ラピダス)」の発足が様々な分野に波及効果を与えている。工場建設地の北海道千歳市では今後、装置・材料メーカーの進出だけでなく、様々なインフラ投資が活発化すると予想される。次世代半導体製造に必要な装置ではEUVリソグラフィー装置がクローズアップされがちだが、そのリソ工程で「原版」の役割を担うフォトマスク分野にも大きな需要を生み出そうとしている。

北海道千歳に工場建設

 ラピダスは次世代半導体の開発・量産を目的に設立されたファンドリー会社で、キオクシア、ソニー、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、NEC、NTTの民間企業に加えて、三菱UFJ銀行も出資。米IBMやベルギーimecとの連携を通じて、2nm世代の最先端半導体の量産を日本国内で行うことを目指している。代表取締役社長には小池淳義氏(元ウエスタンデジタルジャパン社長)、取締役会長には東哲郎氏(元東京エレクトロン社長)がそれぞれ就いた。

「ラピダスは25年に試作ライン、27年に量産ラインの立ち上げを目指す」
「ラピダスは25年に試作ライン、
27年に量産ラインの立ち上げを目指す」
 23年2月には、建設する半導体工場の建設予定地として、北海道千歳市を選定。25年に試作ライン、27年に量産ラインの立ち上げを目指す。これら計画に必要な投資規模はあわせて5兆円規模と言われており、まさに巨大国家プロジェクトにふさわしいスケジュールとなっている。

 今後、試作・量産ラインの立ち上げに向けて製造装置の発注や導入を行っていくものと見られるが、なかでも需要が先に立ち上がるとして期待されているのがフォトマスク関連だ。インテルやサムスン、TSMCなどグローバルの大手半導体メーカーは光・EUVともにフォトマスクは内製が主体となっている一方、ラピダスはフォトマスクを全量外部調達で行うと言われており、外販マスクショップがその供給を担うとされている。

 長らく、外販マスク市場の需要の中心は光リソ向けに限られており、EUVマスクの需要が外販市場に流れてくるのは数年先、流れてきても少量との見方が一般的であったが、ラピダスの登場によって、それが大きく変わりつつある。フォトマスクの需要は量産開始時よりも、開発や試作など立ち上げ前にピークを迎えることから、他の製造装置・材料よりも需要拡大が先行している。

 透過型の光リソと異なり、EUVは反射型マスクとなっており、材料や製造工程などは全く別物だ。そのため投資負担も大きくなる。最も大きな投資がマスク描画で、EUVマスクではマルチビーム(MB)マスク描画装置での製造が主流となっている。光リソでは露光工程を増やす多重露光技術によって、マスクの描画パターンはそれほど多くなかったが、EUVリソによって「露光回数が減る=マスクの描画パターンが増大」していることから、従来のシングルビームでは描画時間が膨大になってしまう課題があった。それを解決するのがMB描画だ。

 外販マスク市場では、最大手のトッパンフォトマスクがMB描画装置の導入(計2台)を進めているほか、外販マスクショップとしてMB描画装置をいち早く導入していた大日本印刷(DNP)も2台目の増設投資を決めている。

「内製優位」の市場環境に変化

 半導体フォトマスク市場は大きく内製と外販に区別され、ここ数年は内製市場が大きく拡大。外販市場は厳しい環境に晒されてきた。内製主体の半導体メーカーの勢力が拡大、外販市場の主要顧客は業界でも中堅プレーヤーが多く、業界の再編淘汰の波に飲まれて、需要がなかなか増えない事情があった。

 ところが、21年以降、「内製優位」の市場環境に変化が生じている。内製メーカーが半導体製造においてEUVプロセスを本格的に導入し始めたことで、マスク分野への投資もEUV向けに集中。結果、既存の光リソに関してはアウトソースを積極的に活用する方針に変わり始めている。

 23年の半導体フォトマスク市場は前年比で横ばいをキープすることになりそうだが、内製・外販の内訳を見ると、内製市場はメモリー分野の低迷と一部EUV投資の先送りによって縮小する見通しである一方、外販市場は足元での成熟ロジックの好調などによって23年もプラス成長を継続する見通しだ。

 さらに今後はラピダス誕生で生まれたEUVマスク需要や、地政学的なリスク増大に伴い、半導体工場投資の地理的分散もプラスに働くなど、外販マスク市場を取り巻く環境はここ数年で一気に好転した印象だ。

電子デバイス産業新聞 編集長 稲葉雅巳

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