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第523回

関西大学 化学生命工学部 教授 石川正司氏


リチウム硫黄電池を実用化へ
独自の炭素と電解液を開発

2023/4/28

関西大学 化学生命工学部 教授 石川正司氏
 関西大学では、2022年10月に各研究者がCO2の削減に向け、それぞれのテーマの相乗効果を図るカーボンニュートラル(CN)研究センターが設置された。科学技術振興機構(JST)や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクトでリチウム硫黄電池の開発を行っている関西大学 化学生命工学部教授の石川正司氏に話を伺った。

―― 電池材料に従事されたきっかけについて。
 石川 大阪大学大学院にて酵素・補酵素の研究を行っていた。その後企業に勤めたが、30歳のときに大学での研究に従事したいと思い立った。分野問わず研究できる場所を探していたところ、山口大学の電池研究で声がかかった。大学院で研究していた酸化還元の部分がつながっており、電子移動なら自分にもできるのではと研究を開始した。

―― リチウム硫黄電池への取り組みについて。
 石川 13年からJSTの将来型蓄電池の開発プロジェクトである先端的低炭素化技術開発(ALCA)の次世代蓄電池プロジェクトに参加し、リチウム硫黄電池の研究を開始した。

―― リチウム硫黄電池の特徴は。
 石川 正極活物質に硫黄、負極活物質にリチウム金属を使用した蓄電池である。充放電は硫黄とリチウムの酸化還元反応で行われる。非常に軽く、国内で豊富に調達でき、資源確保の面にも優れる。

―― 実用化に向けての課題は。
 石川 硫黄は絶縁体であるため電気を通さないことと、電子が流れても反応を始めたら硫黄が電解液に溶けてしまうという課題がある。これを解決する技術を開発した。

―― どういった技術ですか。
 石川 炭素に約2nm以下の微細な穴をあけたミクロ多孔性カーボンのなかに硫黄を閉じ込めたものを正極に使用する。炭素は電気を通すので、硫黄に電子を運んでくれる仕組みだ。約2nm以下の穴だと硫黄が完全に閉じ込められて、電解液に溶けなくなることが分かった。

―― 製品化への課題は。
 石川 負極の能力向上が課題となっている。正極では容量1672mAh/gというリチウムイオン電池の約10倍の大容量を実現した。一方、負極の能力がまだ完成していない。負極側での大容量化を実現し、正極とのチューニングを行い電池に仕上げて製品化を目指す。

―― 負極の課題解決については。
 石川 もともと正極のみを研究していたが、5年ほど前からは負極の研究にも取り組んでいる。

―― ALCAでの成果の用途は。
 石川 社会での分散型電力貯蔵や自然エネルギーのローカル蓄電といった、社会の電力変動に対応する貯蓄システムのための使用を目指す。
 リチウム硫黄電池は安く、軽量で、室温で作動できる。そのため、これまでの蓄電池システムをより安く簡単に、家庭、オフィス、産業用など身近なところに設置できるようになる。軽量、低コストのニーズの高い、インパクトのある場所での実用化を目指している。

―― 参画されているNEDOのプロジェクトでは。
 石川 先述の研究成果を活用し、(株)GSユアサからの再委託で航空機向け電池の研究を行っている。航空機はより軽量化が求められる。ALCAの技術では炭素を使用したが、炭素は重さがある。そのため、炭素に4nm以上の大きな穴をあけることで炭素を減らし、硫黄の割合を多くする。
 硫黄が電解液に溶けてしまう問題については、硫黄が溶けるときに、穴に蓋を作ってくれる特殊な電解液を開発した。現在はさらなるエネルギー密度の向上に向けて取り組んでいる。

―― 今後について。
 石川 ALCAに代わり、23年度中に新たに革新的GX技術創出事業(GteX)が発足する予定である。毎年100億円×5年間の資金が確保されていて、蓄電池、水素エネルギー、バイオといった3つの柱を中心に研究開発が行われる。私もここで研究を続けていきたい。新型蓄電池において先述の新技術をさらに発展させていく予定だ。


(聞き手・日下千穂記者)
本紙2023年4月27日号7面 掲載

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