商業施設新聞
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No.903

「不快」が果たす機能


山田高裕

2023/4/25

 「不快」というものは、一般的には避けるべきものとして認識されている。不快な思いをさせて申し訳ございません、という謝罪文句はもはや定型文だ。しかしこうした「不快」にスポットを当て、それを活用した事例を展示する「世の中を良くする不快のデザイン展」が、3月24日から4月23日までの期間で東京・丸の内にて開催された。

苦味で誤飲を防止するNintendo Switchのカードなどが展示されている
苦味で誤飲を防止するNintendo Switch
のカードなどが展示されている
 展示のコンセプトは、「不快」という側面に着目し、世の中を良くするデザインを取り上げるというもの。例としては、注意を向けざるを得ない音で危険を示す緊急地震速報の音、不快なにおいをつけて注意を促す都市ガス、幼児の誤飲防止のため、非常に苦い物質を塗布しているNintendo Switchのゲームカードなどだ。「不快」という感情は伝達速度やインパクトが強く、人の行動に与える影響も大きいという。

 こうした「不快」に基づくデザインは、施設運営に関するものでも存在している。ある動物や、またある年代の人々以外は聞きづらい周波数の音であるモスキート音を発し、施設の前などにたむろするのを防ぐという取り組みだ。

 今回の展示を企画した電通クリエーティブXの企画チームは、「あらゆる不快を排除した社会」=「快い社会」という世の中の流れに疑問を感じたのが企画のきっかけとしている。不快を排除するために禁止事項を増やしていった公園が、結局できることが何もない空間になり、「居心地が悪い場所」となってしまったような事例を念頭に、「不快はないほうがいい」という世の風潮に異を唱えるために「不快」がポジティブな働きを果たしている事例を集めた。

 商業施設について考えてみても、最近の施設は「居心地が良い空間」「安心して過ごせる空間」を意識した、滞在型を目指して施設づくりをしているケースが多い。それは確かに多くの人が求めていることだろうし、重要なことでもあるだろう。しかし、こうした「不快」が持つポジティブな機能について考えると、「不快」をすべてそぎ落とした施設が果たしてあるべき姿なのか、とも思わされる。商業施設における滞在はどうあるべきかについて、色々と考えさせられるきっかけになった展示だった。
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