電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第527回

世界半導体の用途別売上トップは通信向け、なんと車載向けは3位に浮上


日本の半導体市場は世界の6%、ルネサス、ソニー、東芝の3社だけがランクイン

2023/4/14

 2022年の世界半導体の売上高は約75兆円であり、3~4%は前年に対して伸びてきたようだ。それにしても年後半からの失速は大変なものがあり、今現在にあって、メモリーなどは4割~5割は減っているとさえ言われている。これはひとえに、世界のGDPが伸びないからであり、ここには新型コロナの影響、ロシア・ウクライナ戦争のインパクト、中国経済の低迷などが暗く影を投げかけているのだ。

データセンター向け半導体は増える一方だ(ファーウェイの設備)
データセンター向け半導体は増える一方だ(ファーウェイの設備)
 さて、22年の世界半導体売り上げ構成を見ていたら、非常に面白いことに気が付いた。なんと、用途別でトップを行くのが通信向けであり、全体の30%を占有している。5G/6Gという高速通信が増えてくれば、当然のことながらデータセンターが要となるわけであり、こちらの投資が活発であることがよくわかる。そして一方で、無線であっても有線であっても、エッジコンピューティングが盛んになってくるわけであり、今後も通信向け半導体は実に重要な存在になると言ってよいだろう。もちろん、スマホは通信機器としての大きな存在であり、ピークで15億台あったものが今は12億台に減っているものの、今後もその重要性は変わらないだろう。

 そして用途別の第2位はPC/コンピューターであり、ここにはタブレットやモニターなども含まれ、現状で世界出荷台数は7億~8億台程度と思われる。これが全半導体の26%を占めている。そして、最も重要なことは、車載向けがじわじわと押し上げてきており、全半導体の14%を占めるに至っている。

 これは一見すればそれほどでもないと指摘する人もいるが、それは違うのである。少し前までは、全半導体のうち車載向けが占める比率はたったの7%しかなかった。それゆえに、新型コロナによる混乱を契機として、サプライチェーンがうまく働かず、半導体不足が叫ばれた折に、とりわけ自動車向けが足りなかったことを思い出して欲しい。つまりは、半導体メーカーにとって一番重要なのは、スマホであり、データセンターであり、パソコンなどであり、そちらが最優先になるのは当たり前なのだ。たった7%しかない車載向けにタマが回っていくわけがない。

 ところが、である。車載向けは3~4年前に比べて2倍の14%になってきたのであるからして、今後は大きく注目する必要がある。EV、プラグインハイブリッド、燃料電池車などのエコカーの普及は、一気に車載向け半導体需要を2.5倍に押し上げると言われている。さらに自動走行運転、AIとつながる機能などを考えあわせれば、車載向け半導体こそ誠に重要な存在になってくると指摘しておきたい。

 そして車載向けの主役は、パワー半導体なのである。それがゆえに、国内でも最大手の三菱電機が1000億円を投じて熊本、福岡に新工場建設をアナウンスすることになるのだ。そしてまた、ロームが福岡県筑後のSiCパワー半導体工場にさらなる増強を考えることにもつながる。また、デンソーは、SiCパワー半導体を使ったインバーターを開発し、レクサスのEV専用モデルに搭載されることが決まっている。SiCパワー半導体のウエハーは、レゾナック(旧昭和電工)から調達することになり、これによってレゾナックは一大飛躍の時を迎えると目されているのだ。

 一方、22年の日本の半導体市場を眺めてみれば、ざっと5兆円弱といったところである。情けないことに、世界の半導体市場の6%しかないという有り様なのだ。それはそうであろう。家電においても、通信機器においても、パソコンにおいても、まったく世界の市場から取り残されているわけであるから、日本国内で使う半導体が増えるわけもない。

 日本市場での半導体メーカー売上高トップ10を見れば、大きく伸びたAMDが前年比59%増と絶好調で、第1位にランクされている。このAMDにやられまくったインテルは、第3位に転落し、なんと同26%減となっている。国内勢ではルネサスが第2位にランクされているが、同社の車載マイコンは世界トップシェアを持つわけであるからして、自動車王国ニッポンの恩恵を多く受けていると言えよう。

 ついで4位はサムスン、5位はソニー、6位はマイクロン、7位はインフィニオン、8位はアナログ・デバイセズ、9位は東芝、10位はクアルコムとなっている。このトップ10の中において、日本企業はルネサス、ソニー、東芝の3社しかいないという寂しさは、もうどうにもならない、という風がある。

 今こそ、国家プロジェクトによる新会社「ラピダス」の北海道千歳新工場に大きな期待をかけたいと思う。2nm以下の高速ロジックで勝負、しかも汎用ではなく合わせ込みのカスタムスタイルでいく、という同社の姿勢は誠にもって鮮明であり、とにかく頑張っていただきたいの一念である。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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