電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第521回

イリソ電子工業(株) 代表取締役社長 鈴木仁氏


国内増強でバランス生産へ
車載に次ぐ新領域にも挑戦

2023/4/14

イリソ電子工業(株) 代表取締役社長 鈴木仁氏
 車載向けコネクターを筆頭に、総合コネクターメーカーとして躍進を続けるイリソ電子工業(株)(横浜市港北区)。2022年度投資額は100億円を計画するなど、中長期に向けた布石を相次いで打つ積極展開をみせている。22年度売上高は前年度比23%増の540億円を見込む。車載用パワートレイン向け主力製品の三次元可動BtoBコネクター「Z-Moveシリーズ」誕生の立役者でもある代表取締役社長の鈴木仁氏に、現況や投資への考え方、今後の展望などをお聞きした。

―― 好業績ですね。
 鈴木 当社売上高の約8割を占める車載向けで、パワートレイン向けの継続的な拡大、インフォテインメント向けの底打ちなどが奏功し、22年4~12月期の累計業績は過去最高を更新できた。ただし、自動車業界における半導体不足の影響から、足元(3月上旬時点)では納入待ちの在庫が3カ月分ほどとなっている。適正在庫水準とみる2カ月程度へ戻るのは夏ごろからと見込んでいる。物価高や電気料金高騰などによる消費マインドの低迷が懸念されるが、需要は強含んでおり半導体不足が解消すれば夏以降は回復に向かうと期待している。

―― 国内での大型投資の背景は。
 鈴木 コネクターの生産は現在、世界4カ国(5工場)で担っているが、日本での生産比率は2割程度にとどまり、中国(上海/南通)生産が4割を占めている。地産地消やサプライチェーンなどを含めた地政学リスクの観点からも、一貫生産を担える拠点を中国、ベトナム、日本でバランスする必要がある。25年に稼働予定の秋田新工場、23年末に操業開始予定の金型を担う花巻工場(仮称)はその試金石となる。なお、フィリピンは主に組立・成形を担っている。

―― 秋田新工場の進捗を。
 鈴木 22年11月に土地を取得し、25年4月ごろの稼働予定で進めている。その後1年間くらいはお客様の工場認定となるため、本格的に世界6拠点がバランスするタイミングは27~28年ごろになるとみる。秋田工場は茨城工場に次ぐ国内2拠点目となり、将来的に国内2拠点で売上高150億円相当への生産能力引き上げを計画している。

―― その他の国内工場でも投資を実行されています。
 鈴木 ご指摘のとおり、茨城工場にも車載パワートレイン周りの大型カスタムI/Oをはじめとする大型コネクターの樹脂成形内製化に向けた新棟を、22年9月に増築した。250tタイプの大型成型機1台を導入済みだ。茨城工場は最先端品を担うマザー工場としての役割も担う。また、成形金型内製化率5割超を目指し、約10億円を投じて岩手県花巻市に金型新工場を23年内に完成させ、同年末の操業開始を予定している。内製化を推進し、技術力のさらなる向上、開発・生産のリードタイム短縮をより一層加速していく。

―― 欧米を含む海外については。
 鈴木 中国でも日本国内同様に、既存工場の中国・上海と南通の製品生産ライン増強を進めている。欧米については地産地消の観点から、お客様の多いエリアでの拠点設置を検討していく。ここ2年くらいの間には方向性を見定めていくことになるだろう。

―― 伸長中の製品群は。
 鈴木 主力製品の振動に強い車載パワートレイン向けZ-Move、そしてBMS(バッテリーマネジメントシステム)用ワイヤーハーネスコネクター「13065シリーズ」の伸長が続いている。また、自動運転に向けた高速伝送向けでは10143シリーズが今後、増えてくると見込んでいる。いずれも新シリーズや次世代バージョンを開発し、順次上市している。電動車向けでは小型化・軽量化が電動車のCO2排出量削減の観点からも技術トレンドであり、顧客ニーズに応えた開発を進めている。

―― さらなる飛躍に向けた今後の展望を。
 鈴木 30年3月期の売上目標である1000億円達成に向けて、車載向けで培った製品群や技術の蓄積を、例えば高速伝送品は基地局向け、振動や熱対応に強い製品はサーバーやクラウド向けなど、産業機器向けの新領域へ拡販を進めていく。すでに5G基地局やロボット向けなどで受注も増えてきている。車載向けに加え、新たな柱を育てていく。

―― 社長就任から2年、重視していることは。
 鈴木 前述のとおり、秋田、花巻と攻めの経営に舵を切っている。会社を支え、動かすのは「人」である。9割は苦しくても1割の達成感が、次へと走る原動力になる。「楽しい」という達成感を得られる会社、モチベーションが上がる会社であり続けられる経営を心掛けていく。そんな思いを込めた「開発秘話マンガ」をWEBサイトで公開しており、ご高覧いただければ幸いである。

(聞き手・高澤里美記者)
本紙2023年4月13日号10面 掲載

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